ロケットから人体へ―佃製作所の新たな挑戦!前作から5年。ふたたび日本に夢と希望と勇気をもたらすエンターテインメント長編!!
テレビドラマ化もされた『下町ロケット』の続編となる長編小説で、テレビドラマでは、後半の「ガウディ編」の原作となっている作品です。
ロケットのバルブシステム開発に伴う様々な障害を乗り越える姿を描いた前作でしたが、今回は佃製作所が医療の分野、それも心臓手術に使用する人工弁の開発に挑戦する姿が描かれます。
今回は、サヤマ製作所という新興の企業が佃製作所の前に立ちふさがります。サヤマ製作所は佃製作所の取引先の一つである日本クラインに取り入り、既に佃製作所に対し大量発注してあった人工心臓用のバルブの取引中止の原因を作り、またロケットエンジンの開発関連の取引先であった帝国重工とも、コンペという形で取引を競うことになってしまうのです。
そうした折、かつて佃航平のもとから喧嘩別れのように出ていった真野賢作が、心臓に埋め込む人工弁「ガウディ」の開発の話を持ちこんできます。国産の人工弁開発を目指す北陸医科大学の一村隼人教授らと共に、心臓病に苦しむ子供たちを救って欲しいというのです。
ところが、日本クラインと組んでいる一村教授の師匠のアジア医科大学の貴船教授とが、サヤマ製作所と共に、佃製作所らへの妨害をしかけてくるのでした。
前回の『下町ロケット』とは異なり、巨大企業に挑む弱小企業の戦いや、佃工業内部の資金繰りの側面で苦労を描く場面よりも、人工弁開発に絡む大学教授間の争いや、企業間競争の側面が強いように思えます。
人間の描き方がステレオタイプに過ぎると言えなくもありませんが、それでも面白いものは面白いのです。
小説としての出来は、前巻の『下町ロケット』のほうが面白かったようには思うのですが、いずれにしろ、困難に直面し、乗り越えられないと思う頃に何らかの出来事が発生し事態は好転する、という痛快小説の王道にのっとっている物語です。
佃工業の中小企業なりのまっとうな企業努力こそが勝利するという痛快小説の王道を行く、物語でした。
企業小説として、本ブログの『下町ロケット』の項では 城山三郎の『価格破壊』や
百田尚樹の『海賊とよばれた男』などを例として挙げましたが、ここでは 獅子文六の大番を挙げておきたいと思います。
この書籍は少々古い(1960年代)作品ではありますが、戦後の東京証券界でのし上がった男の一代記を描いた痛快人情小説で、日本橋兜町での相場の仕手戦を描いていて、その面白さは折り紙つきです。痛快人情小説という点ではこちらの方が本書に近いかもしれません。