『透明な螺旋』とは
本書『透明な螺旋』は『ガリレオシリーズ』10作目となる、新刊書で301頁の長編の推理小説です。
レビューを見ると評価は高いようですが、個人的には東野圭吾の作品としては普通としか思えない作品でした。
『透明な螺旋』の簡単なあらすじ
シリーズ第10弾。今、明かされる「ガリレオの真実」。殺人事件の関係者として、ガリレオの名が浮上。草薙は両親のもとに滞在する湯川学を訪ねる。シリーズ最大の秘密が明かされる衝撃作。(「BOOK」データベースより)
南房総沖で背中に射創のある漂流している遺体が見つかった。照会の結果、東京都足立区に住んでいて、行方不明者届が出ている上辻涼太という人物の疑いが強くなった。
ところが、行方不明者届を出した同居人の島内園香という女性が届出の三日後には休職願を出して仕事を休んでおり、連絡が取れない状態にあるというのだった。
この事件は警視庁捜査一課の草薙俊平の係が担当することとなり、千葉県警との合同捜査本部が設けられることとなった。
同居人である島内園香の身辺を調べていくと、園香の母親が親しくしていたらしい松永奈江という絵本作家の名前が浮かんできた。
ところが、松永奈江が書いた絵本の参考文献の中に湯川学の名前が出てきたのだった。
『透明な螺旋』の感想
本書『透明な螺旋』は、二組の女性の人間ドラマを描いたミステリーです。
最初はかつて子を産んだものの夫が急死し、自分で育てることができなくなりその子を児童養護施設の前に置き去りにせざるを得なかった母の話です。
もう一人は島内園香という女性であり、母親の千鶴子をクモ膜下出血で亡くして一人になってしまいます。
そこで園香は、千鶴子が親しくさせてもらっていたナエさんという女性に助けてもらうのです。
この物語の中心になるのはこの園香という女性です。
花屋で働いていた園香に眼をつけたのが客として来たことのある上辻涼太であり、母を亡くした園香は上辻とともに暮し始めます。
ところがこの上辻涼太はたちの悪い男で、園香に手をあげ、ホステスとして働かせようとまでするのです。
こうした経緯の末に起きた殺人事件であり、湯川の名前も関係者として挙がり、事件の解決に半分当事者としてかかわることになります。
主要な登場人物としては、上記の赤ちゃんを捨てた女性とこの物語の中心となる島内園香とその母親の千鶴子、そして殺された上辻涼太、それにナエという女性です。
探偵役としては湯川以外はこれまたシリーズの馴染みの視庁捜査一課の草薙俊平、草薙の部下の内海薫などがいます。
そして、本書『透明な螺旋』の最大の売りは惹句にある「ガリレオシリーズ最大の秘密が明かされる。」という点にあるようです。
でもそれはシリーズを読み続けている人を対象にしか当てはまらない言葉であり、シリーズ冒頭の数冊しか読んでいない私にとってはどちらかというと意味不明の言葉でした。
湯川の私的な日常の一端が明かされていることが珍しいということもあるようですが、その点もよく分かっていませんでした。
やはり、シリーズ物は順番に読み続けていないと物語のニュアンスも上手く読み取れないと思われます。
結局、シリーズを読み込んでいない私にとってはそれほどインパクトのある「秘密」ではなかったのです。
本書『透明な螺旋』の終盤までは東野圭吾らしい物語ではあるもののわりと先が読めやすく、その思いのとおりに進行していきます。
ここで「東野圭吾らしい話」というのは、前著『白鳥とコウモリ』もそうであったように、利他的行為という人間の情に起因する物語のことです。
もちろん、そこにはストーリーや文章力と言った要素も絡んでのことではあるのですが、人間の情を根底に置いたうえで論理を展開させる読ませ方のうまさを意味します。
そうした東野圭吾らしい面白さを持った作品という意味で普通だということです。
しかし、クライマックスに至り、ちょっとした驚きが仕掛けてありました。
こうした裏切りが用意されているからこそ東野圭吾の物語は面白く、辞められない、と言いたくなるのです。
ただ、それまでの展開が東野圭吾にしては普通であったために、冒頭で述べた「普通」という表現になってしまいました。
もう少し、クライマックスに至るまでにインパクトの強い展開を欲していたと言ってもいいかもしれません。
ただ、いちファンとしての過剰な要求と言われれば反論はできず、そういう点では本書『透明な螺旋』は面白い作品だったというべきかもしれません。