『折れた竜骨』とは
本書『折れた竜骨』は、第64回日本推理作家協会賞を受賞した、文庫本で上下二巻で554頁の長編のファンタジー推理小説です。
北海のソロン諸島で展開される剣と魔法の世界を舞台にした本格派の推理小説ですが、本格派の推理小説を苦手とする私でもかなり面白く、また楽しく読むことができた作品です。
『折れた竜骨』の簡単なあらすじ
ロンドンから出帆し、北海を三日も進んだあたりに浮かぶソロン諸島。その領主を父に持つアミーナは、放浪の旅を続ける騎士ファルク・フィッツジョンと、その従士の少年ニコラに出会う。ファルクはアミーナの父に、御身は恐るべき魔術の使い手である暗殺騎士に命を狙われている、と告げた…。いま最も注目を集める俊英が渾身の力で放ち絶賛を浴びた、魔術と剣と謎解きの巨編!第64回日本推理作家協会賞受賞作。 (上巻 : 「BOOK」データベースより)
自然の要塞であったはずの島で、偉大なるソロンの領主は暗殺騎士の魔術に斃れた。“走狗”候補の八人の容疑者、沈められた封印の鐘、塔上の牢から忽然と消えた不死の青年―そして、甦った「呪われたデーン人」の襲来はいつ?魔術や呪いが跋扈する世界の中で、推理の力は果たして真相に辿り着くことができるのか?第64回日本推理作家協会賞を受賞した、瞠目の本格推理巨編。 (下巻 : 「BOOK」データベースより)
ソロン諸島の領主が魔術の使い手に殺されるという事件が起きます。
領主の娘アミーナは、騎士ファルクとその従士である少年ニコラの力を借りて、剣と魔法の世界で領主殺しの犯人をつきとめるために奔走するのでした。
『折れた竜骨』の感想
本書『折れた竜骨』を読むまで何の前提知識もなかったため、冒頭の「ブリテン島」という単語を見たとき、間違えたのかと思いました。
あらためて本書の惹句を読むと、そこには「魔術と剣と謎解きの巨編登場!」とあったのです。
さらに目次と「あとがき」を読むと、著者本人の言葉として、以前書いてあった異世界ファンタジーをもとに舞台を獅子心王リチャードの存した十二世紀末の欧州に移し、本書を仕上げた、とありました。
そういう前提があれば納得です。早速読み始めたのですが、いざ読み始めるとその面白さに結局一気に読み終えてしまいました。
もともと、アーサー王の物語をあげるまでもなく、騎士の物語は好きでしたし、ファンタジーは尚更です。その中世を舞台にした剣と魔法の物語自体が私を惹きつけました。それだけ物語自体が面白かったのです。
それに加えて謎解きの要素が入っているのですから、第64回日本推理作家協会賞、第11回本格ミステリ大賞候補、第24回山本周五郎賞候補という受賞歴を見ても、ファンタジー好きのみならずミステリーファンを惹きつけたというのはよく分かる話です。
本書『折れた竜骨』は推理小説として分類すると、私が得手とするものではない本格派の推理小説ということになるのだと思います。
しかしながら、本書はそんな私もつい引き込まれてしまうほどの面白さを持った小説でした。
本来、謎ときのために現実感を書いた舞台設定がされ、犯罪動機などは二の次である本格派と言われる小説ですが、本書の場合、舞台は剣と魔法の国であり、そもそも舞台設定自体が現実感などない点であることがその原因の一つだと思われます。
というよりも、剣と魔法の物語としての面白さがあり、そこに推理小説としての謎ときの要素が付加されていると言ったほうがいいのかもしれません。
そもそもこの作者の『王とサーカス』や、より本格派の要素の強い『インシテミル』もそうですが、物語としての面白さ、つまりはストーリ展開の面白さが強いのです。
本書『折れた竜骨』もその例に漏れず、ストーリー展開の面白さを十分に楽しめる小説でした。
なお、本作品は佐藤夕子氏の画により、ファミ通クリアコミックスから全五巻として出版されているようです。(2021年10月28日現在)