花を愛でながら余生を送っていた老人・秋山周治が殺された。第一発見者の孫娘・梨乃は、祖父の庭から消えた黄色い花の鉢植えが気になり、ブログにアップするとともに、この花が縁で知り合った大学院生・蒼太と真相解明に乗り出す。一方、西荻窪署の刑事・早瀬も、別の思いを胸に事件を追っていた…。宿命を背負った者たちの人間ドラマが展開していく“東野ミステリの真骨頂”。第二十六回柴田錬三郎賞受賞作。(「BOOK」データベースより)
この作品を読み終えてからネット上のレビューを見ると、この作品に対する私の印象とは異なる高評価のレビューが多いことに驚きました。もっとも、本作品は第二十六回柴田錬三郎賞を受賞している作品ですから、評価が高いのが当然なのでしょう。
この作品の鍵となるのは梶よう子の『一朝の夢』『夢の花、咲く』でもテーマになっていた「変化朝顔」です。「変化朝顔」とは人間が交配させて作り出された珍しい色や形の朝顔のことを言います。江戸時代はこのめずらしい朝顔の種が高値で取引されていたらしく、そこらを物語に絡めたのが梶よう子の作品でした。
本作でもこの「変化朝顔」を軸に物語が展開するのですが、私にはこの「変化朝顔」という道具がうまく機能しているとは思えななかったために、本作品は私の中ではあまり高い評価ではなかったのです。
数十年前にあった殺人事件。そして蒼太の初恋や、梨乃の従兄である尚人の自殺などの事件が起き、梨乃の祖父である秋山周治の殺害へと続きます。これら無関係の事柄が最終的には一つのことへと収斂していく手際はいつものことながらにうまいものだと思います。
でも、例えば『新参者』や、先日読んだ『ナミヤ雑貨店の奇蹟』には及ばない作品だと思うのです。東野作品の面白さは、その回収をも含めた、作品全体を通した二重、三重の仕掛けの巧みさにあると思うのですが、本書では「変化朝顔」を使った仕掛けが上手く機能しているとは感じませんでした。
しかし、そうはいっても事実他の評価の高いこと、また柴田錬三郎賞を受賞している事実もあることを考えると、私の個人的な感想にすぎないということになってしまいますね。
ところで、「変化朝顔」と言えばもうひと作品がありました。それは田牧大和の濱次お役者双六シリーズの中の『花合せ』という作品です。主役級の役者以外の女形を意味する「中二階女形」である梅村濱次が、師匠の有島仙雀らをも巻き込んだ変化朝顔を巡る騒動に巻き込まれるという物語で、かなり面白く読んだ作品です。