『探偵は田園をゆく』とは
本書『探偵は田園をゆく』は『シングルマザー探偵の事件日誌シリーズ』の第二弾で、2023年2月に322頁のソフトカバーで刊行された長編のハードボイルド小説です。
シリーズ初の長編小説で、山形弁そのままの女探偵が行方不明になったある男を探し回るハードボイルドですが、どことなく物語に没入できない違和感を感じた作品でした。
『探偵は田園をゆく』の簡単なあらすじ
椎名留美は元警官。山形市に娘と二人で暮らし、探偵業を営んでいる。便利屋のような依頼も断らない。ある日、風俗の送迎ドライバーの仕事を通じて知り合ったホテルの従業員から、息子の捜索を依頼される。行方がわからないらしい。遺留品を調べた留美は一人の女に辿り着く。地域に密着した活動で知名度を上げたその女は、市議会への進出も噂されている。彼女が人捜しの手がかりを握っているのだろうか。(「BOOK」データベースより)
『探偵は田園をゆく』の感想
本書『探偵は田園をゆく』は、シングルマザーである椎名留美という元警官の探偵を主人公とするハードボイルド作品です。
シリーズ第一巻の『探偵は女手ひとつ』は六編からなる連作短編集でしたが、本書は本業の人探しの依頼を受けての長編小説となっています。
本シリーズの特徴は、物語の舞台が山形であって、主人公ら登場人物の言葉ももっぱら山形弁だということです。
私には分からないのですが、出てくる土地名もそのままに山形に実在する土地が登場してきていることだと思います。
地方が舞台の小説と言えば、私の郷里熊本を舞台にすることが多いSF作家で、映画化もされた『黄泉がえり』の作者である梶尾真治の作品が思い出されます。
この人の作品に登場するのは私もよく知っている熊本市内の繁華街であったり、郊外であったりするので、読んでいてとても親しみを感じるのです。
多分、山形の人達も本書を読んで同様の思いを持つことだと思っています。
椎名留美はデリヘルのドライバー仕事に関連して知り合った橋立和喜子という女性から、息子の翼が行方不明になったので探してほしいという依頼を受けます。
母親の溺愛をいいことに女にだらしなく、いい加減な生活を送っていた翼がある日突然連絡が取れなくなったというのです。
翼の部屋にあったとある品物から浮かび上がってきたのが西置市内のNPO法人の代表者である吉中奈央という女性と、その側にいた西置市の東京事務所顧問だという中宇祢祐司という男でした。
こうして、前巻にも登場してきた畑中逸平・麗の元ヤンキー夫婦の手助けを得ながら探索を始めるのです。
本書『探偵は田園をゆく』は、こうして人探しというハードボイルドの王道の仕事を遂行する留美たちの姿が描かれていますが、主人公の椎名留美の背景も前巻より以上に詳しく語られています。
留美は両親に反対されながらも椎名恭司と結婚しましたが、知愛が生まれてからも、恭司が事故死してからも両親とは仲違いしたままでした。
代わりに義母の椎名富由子とはとても良好な関係を保っていて、恭司の死後しばらくは間をおいていたものの、今回の事件でたまたま再開してからは前以上に仲良くなっていくこと、などが語られています。
さらには留美が警察をやめるに至った事情についても明らかにされているのです。
前巻で、こうした事情がどこまで明らかにされていたかはよく覚えてはいないのですが、ここまで詳しくは明らかにはされていなかったと思います。
こうしてシングルマザー探偵の仕事ぶりが語られることになっているのですが、ただ、ミステリーとしての本書に関しては、今一つ感情移入できませんでした。
前巻は、それなりに面白く読んだ記憶しかありません。山形弁の女性探偵という設定もユニークだし、個々の話の内容もそれなりに惹き込まれて読んだと覚えています。
しかし、本書では敵役に今一つ存在感がなく、惹き込まれて読んだとまでは言えませんでした。
前作の個々の物語の登場人物たちのように、キャラクターが立っている印象が無かったことによると思います。
さらに言えば、最後のひねりにも少々無理筋なものを感じてしまったこともあると思われます。
本シリーズは、主人公にも、その周りの登場人物たちにも魅力的な人物が多く登場してきているので、もっと面白い差作品が出てくるものと期待して待ちたいと思います。