荒俣 宏

荒俣宏と言う人は博覧強記の知識人として今でもメディアによく登場する人です。「帝都物語」という一大長編小説で名を知られるようになり、怪奇現象や超常現象のコメンテーターとしても知られています。

この作家はフィクション、ノンフィクション併せて多数の著作があるようですが、私は「帝都物語」しか読んでいないので他の著作の紹介は出来ません。

ただ、この「帝都物語」という作品は、荒唐無稽ではありますが、全体的な構成は別として個々の事柄は博物学や神秘学に裏付けられています。SF小説(ファンタジーでもSFでも分類はどうでもいい)ですが、「風水」という言葉が一般化したのはこの作品からではないでしょうか。

特に映画版の評判がよく、当時の日本映画の一大作品であった事は間違いありません。

東 直己

札幌市立東白石中学校、北海道札幌東高等学校卒業、小樽商科大学中退、北海道大学文学部哲学科中退。
大学中退後、土木作業員、ポスター貼り、カラオケ外勤、タウン雑誌編集者など様々な職を転々とした後、1992年、『探偵はバーにいる』で作家デビューした。以後、「俺」を探偵役にしたススキノ探偵シリーズ、探偵畝原シリーズ、榊原シリーズなどの作品を発表し、気鋭のミステリー作家として注目を浴びる。小説、エッセイの他、自ら取材のために刑務所に服役して著した異色のルポタージュ『札幌刑務所4泊5日体験記』などがある。札幌市在住であり、同市および北海道を舞台にした作品が多く、北海道のローカル情報番組「のりゆきのトークDE北海道」(uhb)では長年にわたってコメンテーターとしても活躍している。
2001年、『残光』で第54回日本推理作家協会賞を受賞した。( ウィキペデア : 参照 )

 

ずっとこの東直己という作家の作品を読んだことがありませんでした。正確に言えば、アンソロジーの中の一作として短編を読んだことはあったのだけれど、記憶に残っていなかったのです。

ところが、大泉洋主演の映画『探偵はBARにいる』がきっかけで東直己を知ったのですが、原作を読んだところ、これが非常に面白い。久しぶりに物語世界に引き込まれた作家に出会いました。

作品単品ではこれは良いと思える作品はあったのですが、作家として面白いと思えたのは久しぶりのことです。

 

 

ハードボイルド作品ですが、少なくともシリーズ作品は北方謙三志水辰夫などの低いトーンの男たちの世界と比べると現実的です。

 

 

東直己の『ススキノ探偵シリーズ』の主人公はひたすら能天気だし、『探偵・畝原シリーズ』では生活を背負って生きています。『榊原健三シリーズ』でも、この作家自身がそうなのか、文章若しくは文体がそうなのか、決してトーンが低いとは言えなさそうです。

また、これらの三作品について言えば各シリーズがその舞台を同じくしていて、夫々の登場人物が他のシリーズに出てきたりと、それもまたこの作品群の魅力の一つだと思います。

特に「ススキノ探偵」の「俺」の饒舌さは群を抜いています。少々冗長な場面が無いこともありませんが、それでも物語の雰囲気を盛り上げてくれます。

 

ちなみに『ススキノ探偵シリーズ』の映画化作品は、現時点(2018年10月)で「探偵はBARにいる3」まで三作品が作成されています。映画版もそれだけ人気があるということでしょう。

 

 

残念ながら東直己作品はここしばらく出版されていないようです。心待ちにしているのですが、残念です。

アイザック・アシモフ

SF界の重鎮です。海外のSF御三家としてこの人とアーサー・C・クラークロバート・A・ハインラインが挙げられます。強いて言えばの話ですが、クラークは一番SF的であり、ハインラインは一番エンターテインメント性に富み、アシモフが一番論理的だと言えると思います。

アシモフの名前を知らなくてもアシモフによって創られたと言われる「ロボット三原則」若しくは「ロボットは人間に危害を加えてはならない。・・・」から始まる文句は聞いたことがあるのではないでしょうか。または手塚治虫等の漫画で読んだことがあるかもしれません。

「夜来る」という今でも一番の名作と言われる短編で世に知られるようになったアシモフですが、その後ファウンデーションシリーズや前記のロボットものを発表します。最終的にはアシモフの殆どの作品は一つの未来史の中に位置づけられるようになりました。

ボストン大学で教鞭をとる傍ら創作活動も行っていて、SFというジャンルが認められるにつれ専業作家として活動を始めたそうです。一方、ミステリも書いていて、「鋼鉄都市」はロボットとミステリの融合した作品として高名ですし、後には「黒後家蜘蛛の会シリーズ」のような純粋なミステリーも書いています。

ハインラインもそうですが、別にSF好きと言わなくても前提となるSF的設定さえ受け入れることが出来る人ならば万人に受け入れられる作家ではないでしょうか。勿論著作活動が1940年以降の人なので舞台背景は古いと感じられるかもしれませんが、その事実は大きな障害にはならないと思います。まあ、SFが嫌いな人はその前提が駄目だという人が多いのでしょうが・・・。

朝井 まかて

1959(昭和34)年大阪府生れ。広告会社勤務を経て独立。2008(平成20)年小説現代長編新人賞奨励賞を受賞して作家デビュー。2013年に発表した『恋歌』で本屋が選ぶ時代小説大賞を、翌2014年に直木賞を受賞。続けて同年『阿蘭陀西鶴』で織田作之助賞を受賞した。2015年『すかたん』が大阪ほんま本大賞に選出。2016年に『眩』で中山義秀文学賞を、2017年に『福袋』で舟橋聖一文学賞を受賞。2018年、『雲上雲下』が中央公論文芸賞を受賞した。その他の著書に『ちゃんちゃら』『先生のお庭番』『ぬけまいる』『御松茸騒動』『藪医 ふらここ堂』『残り者』『落陽』『最悪の将軍』『銀の猫』『悪玉伝』などがある。( 朝井まかて | 著者プロフィール | 新潮社 : 参照 )

最初に読んだ本が『恋歌』という樋口一葉らの師である歌人中島歌子を描いた作品であったためでしょうか、文章の格調が高く、主人公の心象を表現する言葉の選択がうまい人だと読みながらに思ったものです。この作品は、本屋が選ぶ時代小説大賞2013及び第150回直木賞を受賞しています。

しかし、次に読んだ『先生のお庭番』でも自然の描写が美しく、またシーボルトが自分の故郷に馳せる思いを主人公に語る場面など淡々としていながら想いが言葉に乗っていて忘れられません。とすれば、この作家の文章そのものが品のある文章だと思ってよさそうです。

その後『ちゃんちゃら』や『ぬけまいる』などのコミカルな小説をも見事にこなしておられることを知り、その作品の幅の広さに驚いていました。

 

 

ところが、江戸城明け渡し時に大奥にとどまった五人の女を描いた『残り者』では浅田次郎の『黒書院の六兵衛』の女版のような、しかししっかりと独自性を持った作品も描かれ、いつまでも読み続けたい作家さんとして深く心に残ったものです。

 

 

文章が美しい作家は何人か思い浮かびますが、この作家もその一人になることでしょう。また、未読の作品が数多く残っている作家さんでもありますので、是非読破したいと思っています。

ちなみに、『ぬけまいる』という作品は、「ぬけまいる〜女三人伊勢参り」と題して、2018年10月にNHKで「土曜時代ドラマ」枠でテレビドラマ化されています。

ぬけまいる~女三人伊勢参り : 参照

青山 文平

青山文平』のプロフィール

 

1948(昭和23)年、神奈川県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。2011(平成23)年、『白樫の樹の下で』で松本清張賞を受賞しデビュー。2015年、『鬼はもとより』で大藪春彦賞、2016年、『つまをめとらば』で直木賞を受賞。他に、『かけおちる』『伊賀の残光』『半席』『励み場』『遠縁の女』『江戸染まぬ』などがある。『半席』は『このミステリーがすごい! 二〇一七年版』で四位となり注目されたが『泳ぐ者』はその『半席』の待望の第二弾である。( 青山文平 | 著者プロフィール | 新潮社 : 参照 )

 

青山文平』について

 

江戸時代の天明期前後ともなると武士が武士であるだけでは生きていけない時代になっており、だからこそドラマが生まれやすいから、という理由で青山文平作品は天明期またはその前後の時代を背景とすることが多いそうです。

確かに、出版されている本を読んでみると武士であることに忠実であろうとすることにより巻き起こる様々な軋轢、相克が描かれています。

また、『つまをめとらば』での2016年の直木賞受賞時のインタビューでは、「銀のアジ」を書きたいとも言っておられます。

 

 

死んだ青魚ではない銀色をした生きているアジ、英雄ではない大衆魚としてのアジを書きたいということです。従って、「戦国と幕末は抜けている」のだそうです。

その文章は清冽で、無駄がありません。また、会話文の合間に主人公の心理描写や過去の思い出の描写が挿入されたりと、心裡への接近が独特で、焦点がぼけるという異論もありそうですが個人的には状況の語り口が見事だと思っています。

 

全般的に侍の存在自体への問いかけという手法ですので、痛快娯楽小説を探しておられる方には向かないかもしれません。あくまで、じっくりと言葉の余韻を楽しみつつ、物語の世界に浸る読み手でないと途中で投げ出すかもしれません。

でも、軽い読み物を探している方にもできればゆっくりと時間をとって読んでもらいたい作家さんです。

相場 英雄

新潟県三条市生まれ。新潟県立三条高等学校を経て外国語専門学校卒業後、キーパンチャーとして1989年に時事通信社に入社。当初は情報端末の編集部門で市場データの編集業務を担当していたが、市況担当記者に欠員が生じたため記者職に転じた[1]。経済部記者として日本銀行、東京証券取引所などを担当したが、大卒ではないという理由で大蔵省担当にはなれなかった[2]。2005年、『デフォルト 債務不履行』で第2回ダイヤモンド経済小説大賞(現・城山三郎経済小説大賞)を受賞し小説家デビュー。2006年、時事通信社を退社し作家専業になる。BSE問題を扱った2012年の『震える牛』が累計28万部のベストセラーに[3]。2013年、『血の轍』が第26回山本周五郎賞候補作、第16回大藪春彦賞候補作になる。(「ウィキペディア」からの引用)

未だ二冊しか読んでいないので相場英雄という作家の感想を書くまでには至りません。

でも、既読の二冊を読んだ限りでは多分もう読まない作家、というわけでもなさそうです。綿密な取材と、それに基づく構成と力強さを感じ、読み応えを感じたのも事実です。

特に経済面が強い作家だということであり、確かに流通の側面の描写には凄いものがあります。

ただ、好みの問題かもしれませんが、個人的にはもう少し人間描写に厚みがあれば、と思いました。この二作品を読んだ限りでは、流通過程関連の描写や経済事犯の描写はそれなりのものが感じられても、私にとっては、その裏にいる人間についてその行動の意味や動機づけなどにもう少し力を割いた作風が好みのようです。

和田 竜

大阪生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。番組制作会社泉放送制作に就職するが3年で退職し、繊維・ファッション業界専門の新聞社に転職。

業界紙記者のかたわら執筆したオリジナル脚本『忍ぶの城』で第29回城戸賞を受賞。

2007年(平成19年)11月 『忍ぶの城』を小説化、『のぼうの城』として出版。翌年第139回直木賞候補作となる。
2009年(平成21年) 『忍びの国』で第30回吉川英治文学新人賞候補。
2012年(平成24年) 和田自ら脚本を担当した『のぼうの城』が映画化され公開。
2014年(平成26年) 『村上海賊の娘』で第35回吉川英治文学新人賞と2014年本屋大賞、第8回親鸞賞を受賞、第27回山本周五郎賞の候補作となる。
(ウィキペディアより)

「忍城」をめぐる戦いで面白い小説があるとの情報を得たのはネット上のことだったと思います。いつものように面白い本の情報を探してネットサーフィンをしているときにアンテナに引っかかったのです。

今となってはどこのサイトだったかは忘れましたが、読んでみると確かに面白い。視覚的で、テンポがあって実に読みやすい。登場人物が生き生きと駆け回っているのです。このようにネットで得た情報がヒットすると実に嬉しいものです。

ただ、その後続けで出版された二作品が第一作目に比べると若干勢いがなくなっている気がするのが残念ですが・・・。

と書いていたのですが、その後の作品が凄かった。第四作目となる『村上海賊の娘』は2014年の本屋大賞他を受賞します。もともと脚本を書いておられたからなのか、読み手の想像力をかき立てる文章の読みやすさは増していて、本屋大賞も納得でした。

三浦 しをん

とても読み易い作品を書かれる作家さんです。その視点はユニークで、各作品の主人公の職業も便利屋であったり、辞書編集者であったりと、多岐にわたります。極めつけは林業をテーマにもされています。

この作家の作品では『まほろ駅前多田便利軒』が第135回直木三十五賞を受賞し、瑛太、松田龍平でシリーズで『まほろ駅前多田便利軒』として映画化され、更にテレビドラマ化もされています。

また、『舟を編む』が2012年本屋大賞を受賞して、松田龍平主演で『舟を編む』として映画化され、『風が強く吹いている』『神去なあなあ日常』も『miura-kamusari-dvd』として映画化されています。

 

この作家は他にも読むべきであろう作品が大量にあります。個人的には今のところはずれと思う作品は無く、多分他のどの本をとってもそうだろうと思います。

他の作品も近いうちに読み進むことでしょう。

葉室 麟

正道の時代小説を書かれる人という印象です。

時代劇の雰囲気を醸し出す情景描写は藤沢周平を彷彿とさせ、よく練り上げられたであろう文章は一言で多くを語っています。

どうも根底に漢文の素養のある方らしく、端々にその素養が見え隠れします。だからと言って文章が堅くなっているというのではありません。人を見る眼が真摯で、なお人物の立ち位置を簡潔に語っていると感じるのです。

清廉な人物が物語の中心におり、それを取り巻く人々の思惑の中で翻弄されていく、そうした物語が多いようです。そうした中で、人情小説と言っても間違いではないような細やかな人の想いが語られています。

時代小説といい、人情小説といっても共に人を描いていることに変わりは無く、人の人に対する想いが語られるのでしょう。

どの主人公も自分自身を失わず、凛として生きていて、その生きざまに惹かれます。その最たるものが「蜩の記」の戸田秋谷であり、その家族なのでしょう。

面白いです。是非読むべき作家さんの一人です。


2017年12月23日、葉室麟氏が亡くなられたそうです。

新聞によりますと、体調を崩して入院したおられたとのことです。享年六十六歳ということですが、あまりにも早すぎますね。残念です。

ご冥福をお祈りいたします。

梶尾 真治

1947(昭和22)年、熊本生れ。少年時代から小説を書き始め、1971年「美亜へ贈る真珠」で作家デビュー。短編を中心に活動を続け、代表作は『地球はプレイン・ヨーグルト』(星雲賞受賞)、『未踏惑星キー・ラーゴ』(熊日文学賞受賞)、『サラマンダー殲滅』(日本SF大賞受賞)など。2003(平成15)年には、『黄泉がえり』が映画化され、原作、映画ともに大ヒットを記録。関連作として『黄泉びと知らず』(星雲賞受賞)、『黄泉がえり again』がある。他の著作に『怨讐星域』(星雲賞受賞)、「エマノン」シリーズ、『未来のおもいで』『あねのねちゃん』『穂足のチカラ』『クロノスの少女たち』『杏奈は春待岬に』などがある。(梶尾真治 | 著者プロフィール | 新潮社 : 参照 )

 

タイムリープものを得意とするSF作家です。最初は短編が得意な作家だ、という印象を持っていたのですが、そのうちに『サラマンダ-殲滅』という作品で第12回日本SF大賞を受賞してしまいました。

 

 

その後も、映画化された『黄泉がえり』や、この人の得意とする時間旅行ものの『クロノス・ジョウンターの伝説』や『つばき、時跳び』などの長編が発表されています。

 

 

この作家の一番の特徴は、主人公の置かれる状況の特異な設定であり、その状況を貫くロマンチシズムでしょうか。この作風はデビュー作の『美亜へ贈る真珠』からずっと続いています。

一方『波に座る男たち』という長編などはどこか筒井康隆を彷彿とさせる作品と言えると思うのですが、他にも少々ブラックな作品なども書いています。

 

 

また、『黄泉がえり』などをはじめとする一連の作品群は、その物語が書かれたときの熊本市が舞台であり、そのときの熊本の街がそのままに物語上で展開されています。

当たり前のことですが、熊本という土地に住む私たちにとって、読みやすいストーリーと文章を持つ梶尾真治という作家の作品がさらに親しみやすい物語になっているといえるのです。

 

この作家の作品では、選択肢が限定された状況の下で主人公がどのような行動をとるのか、が実に巧妙に描かれることが多いのですが、その選択肢が限定された状況を作り出すアイデアがまた秀逸なのです。

まずはどの作品でも良いですから読んでみてください。面白いこと請け合いです。

 

わが郷土の先輩でもあるこの作家は是非一読の価値ありと言えます。

ただ、とても読みやすいという点が特徴のこの人の作品は「北方謙三」や「船戸与一」といった少々毒のある、骨太の小説が好みの方からすると物足りないかもしれません。