子母澤 寛

子母澤寛という人の作品では「勝海舟」が有名ですが、年代によっては「新選組始末記」「新選組遺聞」「新選組物語」の「新選組三部作」の作者としての方が有名かもしれません。更に言えば、勝新太郎主演の映画「座頭市」の原作「座頭市物語」の作者でもあります。ただ、映画の座頭市は「座頭市物語」のそれとは殆ど別物語といった方が良いそうです。他にも初期の股旅物を中心として多数の作品がありますが殆どは手に入らないようです。

私は「父子鷹」「おとこ鷹」「勝海舟」の三冊しか読んではいませんが、少なくともこの三冊の面白さは折り紙つきです。「父子鷹」「おとこ鷹」は勝海舟の父親の勝小吉の物語で、時代としては新潮文庫全六巻の「勝海舟」の第一巻目の大半と重なります。勿論主役が異なりますので話も違うのですが。この勝麟太郎の父親勝小吉の物語が無類に面白いのです。

子母澤寛という人は北海道の出身ですが、勝海舟親子を描く上記三冊は、江戸は本所界隈(勝家は現代のJR錦糸町の駅近くらしい)の情景描写が素晴らしいのです。描かれている本所の雰囲気を味わうだけでも一読の価値ありと思うほどです。また、小吉や麟太郎、その周りの人たちの会話がまた小気味よく、実に楽しいひと時を持てると思います。

映像化作品としてはNHK制作の1974年の大河ドラマ「勝海舟」や1990年の「日本テレビ年末時代劇スペシャル」がありますが、両作品とも途中で主役が交代しているからでしょうか、共にDVD化されていません。「父子鷹」が市川右太衛門、北大路欣也の親子共演作品として、それもVHSであるくらいでした。

山本 周五郎

山本周五郎の著作には、現代小説、時代小説両方にすばらしい作品がありますが、ほぼその全作品を読んだつもりです。

文章そのものの持つ格調というものを始めた感じたのも山本周五郎の作品でした。書いてある内容そのものは例え同じであっても、心に響いてくる力が違うと感じるのです。ここぞという時に見られる、たたみかけるような言葉のもたらす余韻など、いつまでも心に残ります。

山本周五郎の作品の中でも、ごく少数の作品ではありますが、全く普通の講談の”のり”であり、それほど心を打つというものではないものもありました。解説を見ると初期の作品群とのことです。しかし、それらの作品も含めて山本周五郎という人の作品は是非読むべきものと思います。

山本周五郎の作品も特定の本を選ぶことは困難です。ここで紹介している作品も、強いて言えば、という程度のものと思ってください。

蛇足かもしれませんが、私は山本周五郎作品を新潮文庫で読んだのですが、解説(確か木村久邇典氏)が素晴らしいです。山本周五郎作品の読み方(と言って良いのか)がよくわかります。

志水 辰夫

この作家の本を読んだきっかけはもはや覚えていません。

それ頃に読んでいた本と言えば、SF小説、推理小説が殆どで、ハードボイルド小説もハメットとかスピレインといった外国モノばっかりだったのです。ところが、この人の本を読んで、日本人の手でこれほどの物語が書けるのか、という新鮮な驚きを覚えたことだけが印象に残っています。

その本が「飢えて狼」だと思っていたのですが、あらためて調べてみたところ「裂けて海峡」だったようです。というのも、その最初に読んだ本の最後の文章が「気障(きざ)」と言うほかない言葉だったのです(後記参照)。こんなきざな文章を書く人が居るのか、という思いと、その文章がその物語の末尾として見事というほかなく、強烈な印象を残していたのです。

飢えて狼」「裂けて海峡」「背いて故郷」が三部作と言われていたと思うのですが、他に「あっちが上海」「尋ねて雪か」などもあります。

近年、志水辰夫は時代劇宣言をしたらしく、時代物ばかりを書いておられるようです。この作品群がまた面白い。ハードボールドな世界が江戸時代を背景に繰り広げられるのです。この人の作品はハードボイルドとは言っても、北方謙三の短文をたたみかける乾いた文体とは異なり、実に叙情的なのです。シミタツ節と言われるその文章が、時代小説として繰り広げられています。

この人の作品は派手なストーリー展開は初期の作品を除いてはそんなにはありません。したがって、少々とりつきにくい側面があるかもしれません。しかし、読了したときには必ず虜になっていると思います。

お勧めです。

北方 謙三

とにかく正統派のハードボイルド作家と言えます。全体的に物語のトーンは低く、短いセンテンスでたたみかけるようなその文体は「男」を強烈に感じさせます。

私の一番好きな「ブラディ・ドール」と「約束の街」シリーズはその最たるもので、同じ世界観を持っています、と思っていたら「街」シリーズの終わりの方では両シリーズが合体してしまいました。

一方、「挑戦」シリーズのように冒険小説的な匂いを持ち、物語のトーンが低いとはいえない作品もあるのですが、それでもやはり根底は「男」を感じさせる物語に仕上がっていると言って良いのではないでしょうか。

ある時期から時代小説や歴史小説にも手を染められています。でもやはり北方節は健在です。

更には中国文学の新解釈による再構成もされています。ここでも北方節は健在なのですが、物語の底に流れていた暗いトーンは影を潜め力強さを感じさせてくれる文体になってます。「三国志」や「水滸伝」など10巻以上にわたる大作を順次発表されています。これらがまた面白く、是非読まれることをお勧めします。

北方謙三作品は作品数も多く、一概には語れません。ただ、どの作品も高水準のものばかりだ、とは言えると思います。

以下殆どの作品を読んではいるのですがとても紹介しきれませんので、私の好きな作品の中でも代表的なものを参考として挙げました。

隆 慶一郎

この隆慶一郎という作者のことは、最初、その物語の面白さにはまった原哲夫のコミック「花の慶次」が隆慶一郎の「一夢庵風流記」という小説を原作としていることで知りました。もう既に鬼籍に入られている方であること、この小説が直木賞の候補にまでなったこと、この作者が多方面で評価されていることもその後知りました。

この原作がまた漫画に負けず面白いのです。そのエンターテインメント性は素晴らしく、当然のことながら他の作品をも読もうという気にさせられました。

この作者も脚本家であったようです。脚本家出身の作家は読者を楽しませることに長けているのでしょう。和田竜にしてもそうですが、脚本家出身の作家の文章はエンターテインメント性が強いように感じられます。

私が三冊しか読んでいないので紹介もその三冊しかできませんが、他の本も間違いなく面白いと思います。隆慶一郎という人は小説家としての活動期間は五年と短いですが、発表された本はどれも面白い(筈)です。少なくとも既読の三冊は面白い物語でした。

そういう作家ですので、面白さは言うまでも無く、お勧めです。

池波 正太郎

池波正太郎と言う人はあまりに大物すぎて、「山本周五郎」や「藤沢周平」「司馬遼太郎」などと同様、改めてここで書く必要のない人とは思うのですが、そうもいかないのでしょう。

この作家について言い古されたことではありますが、ストーリー自体が面白いのは勿論、文章が読み易く、登場人物が良く書き込まれていて物語の世界に入りやすいことが挙げられます

とにかくその作品が多数繰り返し映像化、舞台化されていてその面白さは保証されています。例えば下掲作品以外にも「雲霧仁左衛門」「真田太平記」「侠客」などきりがありません。

ただ、私が読んだのはその中の主だったものだけです。今も目の前の本棚に読みかけの「真田太平記」が並んでいます。いつでも読めるとなれば、つい新刊、新しく知った面白そうな本を手に取ってしまうのです。

その作品数も多数であり、下記のものは単に参考です。

以上のことを踏まえご覧ください。

安東 能明

まだあまり読んでいないので書くことはあまりありません。

ただ、警察小説の中でもいわゆる刑事ものを正当派とすれば、若干その系統からは外れる作品もあるようです。横山秀夫の系統に近いといえばいいのでしょうか。特に「撃てない警官 」はその傾向が強い作品です。

それでも、また次の作品を読んでみたいと思わせる程には面白い小説を提供してくれる作家さんではないでしょうか。

読み終えた二作とも地味な作品でしたが、それなりに面白く読みました。

有川 ひろ

有川 ひろ』のプロフィール

 

高知県生まれ。2004年、第10回電撃小説大賞〈大賞〉受賞作『塩の街』でデビュー。続く『空の中』『海の底』(アスキー・メディアワークス)で一躍注目を集める。「図書館戦争」シリーズは本編完結後もアニメ化などで大ブレイクを続け、2010年には『フリーター、家を買う。』(幻冬舎)がドラマ化、2011年には『阪急電車』(幻冬舎)が映画化されるなど、その作品は多分野にわたり話題を呼んでいる。「ダ・ヴィンチ」(2012年1月号)〈BOOK OF THE YEAR 2011 総合編〉で『県庁おもてなし課』(角川書店)が第一位を獲得、〈好きな作家ランキング女性編〉でも第一位など、幅広い世代から支持を受ける。『シアター!』(メディアワークス文庫)『キケン』『ストーリー・セラー』『ヒア・カムズ・ザ・サン』(新潮社)など著書多数。

引用元:有川浩 | 著者プロフィール – 新潮社

 

有川 ひろ』について

 

この作家の作品には悪人がいません。根底に相手、若しくは仲間に対する信頼があり、対立していて厳しい言葉を投げかける関係でも、主人公が困難に直面した場面など、場合によっては救いの手が差し伸べられたりします。

作品自体がきちんとした状況説明が為され、登場人物の性格にメリハリがつけられていて、全体の構成がしっかりとしているので、普通の文章で日常を語っていても場面が理解しやすいのだと思います。ですから、実に読みやすいのです。

有川ひろは「ライトノベル作家」だそうです。これはご本人もそう公言しているので間違いのないところなのでしょう。

ライトノベルとは言ってもその定義は定かでないようで、概して対象読者が中・高校生だということは言えるのでしょうか。そのためか、ライトノベルの中には人物造形が浅かったりして物語自体にも深みを欠く、と感じられる作品もあるようです。

その点でも有川ひろの作品は概ね安心でき、そう考えればこの有川ひろという作家の読みやすさも分かります。

浅田次郎が五代目中村勘九郎との対談の中で、歌舞伎も小説も「学問の延長上に置いて」はいけない、「庶民の娯楽」であるべき、ということを言われています。

その流れで行くとライトノベルという何となく格下に見られがちなジャンルであっても、逆に若者への娯楽の提供という意味では先頭を走っているのかもしれません。実際、面白い作品は沢山あるのですから。

「図書館戦争」は「本の雑誌」が選ぶ2006年上半期エンターテインメントで第一位、2007年度本屋大賞で第五位、「図書館戦争」シリーズで第39回星雲賞日本長編作品部門を受賞など、その他の作品でも数々の賞を受賞しておられます。

ちなみに、有川ひろは、2019年2月にペンネームの表記を「有川浩」を「有川ひろ」へと変更されました。