一膳飯屋の娘・お以乃。御家人の妻・お志花。小間物屋の女主人・お蝶。若い頃は「馬喰町の猪鹿蝶」と呼ばれ、界隈で知らぬ者の無かった江戸娘三人組も早や三十路前。それぞれに事情と鬱屈を抱えた三人は、突如、仕事も家庭も放り出し、お伊勢詣りに繰り出した。てんやわんやの、まかて版東海道中膝栗毛!(「BOOK」データベースより)
コミカルなタッチで三人の女の道中記をえがいた長編の時代小説です。
最初はこの作家には珍しい(と思える)作品でした。これまで読んだ作品は皆この人の格調高い文章を生かした内容だったので、本書のようなを書かれるとは思っていなかったのです。
本書は、一膳飯屋の行かず後家の「お以乃」、御家人の妻の「お志花」、小間物を商う大店の女主人の「お蝶」という、かつて「馬喰町の猪鹿蝶」と呼ばれたアラサー三人組が織りなすコメディです。
「抜け参り」とは、「親や主人の許しを受けないで家を抜け出し、往来手形なしで伊勢参りに行くこと。」だそうで、本書の三人もある日突然、誰にも、何も言わずにお伊勢参りへと出立します。その旅先で繰り広げられる騒動記なのですが、結論から言うと結構面白く読みました。
最初は何となくストーリーの運びに乗り切れず、この朝井まかてという作家さんはコミカルなタッチには向かないとまで思い始めていたのですが、江戸を抜け箱根の山を超える頃からでしょうか、はっきりとしたイベントが起き始めるとテンポ良く感じてきました。
結末に絡んできそうな、あの人との出会いなどもありつつ、人情話も絡め、格調の高い、しっとりと読み込ませる文章だけではないこの作家の別な側面を知りました。
楽しい作品でした。
ところで、本書『ぬけまいる』という作品は、お蝶を田中麗奈 お以乃をともさかりえ、お志花を佐藤江梨子というキャストで、竹内まりやの曲を主題歌として「ぬけまいる〜女三人伊勢参り」と題して、2018年10月にNHKで「土曜時代ドラマ」枠でテレビドラマ化されています。
ぬけまいる~女三人伊勢参り : 参照