『最後の証人』とは
本書『最後の証人』は『佐方貞人シリーズ』の第一巻目で、文庫本で320頁の長編の推理小説です。
ヤメ検である弁護士佐方貞人が活躍するミステリーですが、上質なヒューマンドラマとして心地よい読後感を得ることができました。
『最後の証人』の簡単なあらすじ
検事を辞して弁護士に転身した佐方貞人のもとに殺人事件の弁護依頼が舞い込む。ホテルの密室で男女の痴情のもつれが引き起こした刺殺事件。現場の状況証拠などから被告人は有罪が濃厚とされていた。それにもかかわらず、佐方は弁護を引き受けた。「面白くなりそう」だから。佐方は法廷で若手敏腕検事・真生と対峙しながら事件の裏に隠された真相を手繰り寄せていく。やがて7年前に起きたある交通事故との関連が明らかになり…。(「BOOK」データベースより)
『最後の証人』の感想
本書『最後の証人』では、主人公の佐方貞人は弁護士として圧倒的不利な状況にある被告人を救い、かつ、事件の真実の姿を暴き出します。
ただ、被告人の無実を立証する、という点では弁護士として当然の職務行為だと思うのですが、そこからさらに事件の真実を暴き出す行為は如何なものでしょう。
「罪はまっとうに裁かれなければいけない」という主人公の思いと弁護活動とは別物ですから若干の疑問はあるところで、正しい弁護活動のあり方なのかどうか、少々考えさせられました。
本書『最後の証人』は実にベタな社会派の推理小説です。しかし、そのベタさが実に小気味いいのです。
ただ、推理小説としては決してうまい出来ではないと思います。それどころか、随所に気になる個所があり、私の感覚からすると現実的ではないと感じられる個所が少なからず見受けられます。
でも物語としてはそのストーリー展開には強く惹きつけられ、早く先を読みたいという思いに駆られました。細かな瑕疵はありながらも、それを上回るこの作者の筆の力だったというところでしょうか。
本書『最後の証人』の作者柚月裕子は、横山秀夫が好きで、彼のような物語を書きたいと語っておられました。
確かに、本書のありようは『半落ち』で示されている人間の業とでも言うべきものをまた別な形で示そうとしているようでもあります。
そしてその試みはそれなりに成功している、と個人的には感じました。
ちなみに、本シリーズは上川隆也主演で五作品がテレビドラマ化されています。
少々役者のイメージは異なる印象ですが、ドラマ化されるということはそれなりに人気を得た作品だとの評価だということでしょう。