『日暮し同心始末帖 逃れ道』とは
本書『日暮し同心始末帖 逃れ道』は『日暮し同心始末帖シリーズ』の第五弾で、2017年2月に祥伝社から322頁の書き下ろし文庫として出版された、長編の痛快時代小説です。
『日暮し同心始末帖 逃れ道』の簡単なあらすじ
神田堀八丁堤で菱垣廻船問屋の番頭が殺された。臨時で定町廻り方となった北町奉行所平同心の日暮龍平は、早速、探索を引き継ぐが難航する。同じ頃、倅の俊太郎を地廻りから救ってくれたお篠に出会う。お篠の夫は彼女を描いた錦絵が評判の絵師だった。ところが、番頭の遺品にその錦絵が見つかるや、お篠の過去に捜索の手が―秘した哀しみが涙を誘う万感の時代小説。(「BOOK」データベースより)
本書は、日暮し同心始末帖シリーズ第五弾の長編の痛快時代小説です。
序 あぶり団子
六歳の俊太郎は九歳の左江之介らと共に寛永寺参詣に行き、健五と呼ばれる男らから乱暴を受けているところをお篠と名乗る女に助けられた。
第一話 八丁堤
お篠とその夫の錦絵師の涌井意春とにお礼に行った翌朝、日暮龍平は江戸煩い(脚気)で動けない廻り方の南村種義の代わりを務めるように命じられる。難しそうな事件としては神田堀の八丁堤での殺しがあった。南村の手先の蔵六に会いに行くと、そこには南村出入りの店の心付けを狙っていた非常警戒掛同心の鈴本左右助や、俊太郎を痛めつけた健五という男もいた。
第二話 美人画
八丁堤で殺された男は、四十を超えて独り身の、品川裏河岸の菱垣廻船問屋・利倉屋の平番頭の雁之助で、二百両を超える金と涌井意春の錦絵を持っていた。無くなっていた銀の煙管と象牙の根付は健五らが売り払ったものであり、なお雁之助が八丁堤にいた理由や意春の錦絵を持っていたのは何故かが気にかかる龍平だった。
第三話 嵐
龍平らが、お篠と雁之助との因縁を知っている男、八弥の元に行き、詳しい話を聞いているころ、相模の出張陣屋の元締・黒江左京の命を受けた五郎治郎や庸行を始めとする四人は、お篠と意春の元に忍び込み、これを殺害しようとしていた。
結 馬入川
龍平と俊太郎はとある人物のもとを訪れ、その後の報告をするのだった。
『日暮し同心始末帖 逃れ道』の感想
本書『日暮し同心始末帖 逃れ道』は『日暮し同心始末シリーズ』の第五弾となる長編の痛快時代小説です。
本書では一人の女に焦点が当てられています。その女はやっとのことで悪党の仲間から逃げ出し、今はある絵描きの女房となって幸せに過ごしていたのです。
ひょんなことからこの女性お篠と知り合った龍平は、とある殺人事件の被害者がお篠の夫である錦絵師の涌井意春の錦絵を持っていたことが気になるのでした。
このお篠という女に凄惨な過去が隠されており、現在の幸せな生活がお篠の過去から現れた男らによって壊されてしまうという、よくあるパターンといってもいい物語の流れでです。
ある事件の関係者が偶然の出会いにより一同に会することになるという物語の流れは、痛快小説の宿命かもしれず、そのことは言いたてても仕方のないことなのでしょう。
しかし、できればその不自然さを少しでもいいので回避して欲しいと思うのです。それとも、無い物ねだりなのでしょうか。
ともあれ、今回は息子俊太郎が理不尽な暴力に遭うことから物語は始まり、そのことについての龍平による意趣返しも意図しないままに果され、お篠に対する非道な行為に対しても龍平の剣が冴え渡り、まさに痛快小説ここにありという展開を見せてくれています。
若干の哀愁を帯びた物語としてあるのもこのシリーズのいつもの流れです。軽く読めるエンターテイメント小説として持ってこいの小説です。