辻堂 魁

日暮し同心始末帖シリーズ

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はぐれ烏 日暮し同心始末帖』とは

 

本書『はぐれ烏 日暮し同心始末帖』は『日暮し同心始末帖シリーズ』の第一弾で、2016年4月に祥伝社文庫から296頁の書き下ろし文庫として出版された、連作の短編小説集です。

全般的に捕物帳というよりは、人情噺といったほうが良さそうな作品です。

 

はぐれ烏 日暮し同心始末』の簡単なあらすじ

 

北町奉行所平同心・日暮龍平。旗本ながら部屋住みを嫌って町方に婿入りした、妙な男である。ひょろりとした痩躯に柔和な風貌だが、実は小野派一刀流の遺い手。何も知らない同僚は、雑用をおしつけ“その日暮らしの龍平”と嘲笑うが、一向に意に介さない。ある日、北町奉行から凶悪強盗団の探索を命じられ…剛剣で江戸の悪を一掃する痛快時代小説! (「BOOK」データベースより)

第一話 日本橋
ある日、老舗菓子問屋鹿取屋忠治郎が娘の川太郎という船頭に誘拐されたと申し出てきた。話を聞くと、どうも娘のほうが熱を上げて押し掛けて行ったらしい。

日暮龍平が、川太郎に萌と別れてくれるように頼みに行くと、川太郎は鹿取屋に雇われて絡んできたという三人の男の相手をしていたが、龍平の話に応じて萌に別れを切り出し、どこかへと消えてしまう川太郎だった。

第二話 唐櫃
十月も終わりに近い頃、十歳になるかならないかの小柄な童女が母親を探して欲しいと申し立ててきた。名をお千代といい、父親がいなくなり、母親と田舎の親戚にいたがその母親もいなくなったというのだった。

この親子がかつて暮らしていた家の家主の安兵衛に話を聞くと、母親はお宮といい、剛蔵という大工がある日突然娘と共に連れてきたものらしい。そのうちに、お宮が男と出合茶屋に入るところを見たという噂が流れ、剛蔵がお宮を罵倒し、折檻する姿が見られ始めたというのだった。

第三話 はぐれ烏
女髪結いのお栄は、五年間も待ち続けた末にやっと帰ってきた喜一と与五郎店で幸せに暮らしていた。七日前に越してきた夕助と湯屋で一緒になった喜一は、二階へ上がると、海蛇の摩吉が声をかけてきた。

一方、龍平は、ある日奉行用部屋へ呼ばれ与五郎店の喜一を隠密に見張れとの命を受けた。上方から西国筋恐れられていた≪海へび≫と呼ばれる強盗団が江戸へ潜入したとの情報がもたらされたためだった。

 

はぐれ烏 日暮し同心始末』の感想

 

本書『はぐれ烏 日暮し同心始末』は『日暮し同心始末シリーズ』の第一弾となる連作の短編小説集です。

 

本書の主人公は、今年三十歳になる北町奉行所の日暮龍平という平同心です。

剣は小野派一刀流の師範代を補佐するほどであり、学問も昌平黌へと通い学んでいたほどだったのですが、旗本でありながら不浄役人と呼ばれる同心職の日暮家へ婿に入ったということと、優しげなその風貌、そして皆から雑用を押し付けられても文句ひとつ言わずに、かえって楽しげに働いているところから、≪その日暮しの龍平≫と呼ばれている男です。

その男が、内に秘める熱い思いを抱えながら、世の中の非道を正すために日々奮闘しているのです。

 

本書は、捕物帳というよりは人情噺というべき作品集かもしれません。

第一話 日本橋は、若者同士の一途な恋模様を、利に目を眩ませた親が邪魔をするという典型的な人情噺です。そこに商売人である親の陥りそうな穴があり、そこに落ちそうになるのを龍平らが奔走するという話です。

第二話 唐櫃は、一人の娘の一生懸命な姿と、親子で互いを思いあう人情噺です。そこに、男が絡み、事件性が出てきて龍平の出番となるのです。

第三話 はぐれ烏は、非道な盗賊と、そこに巻き込まれたある夫婦の物語です。しかし、その実、龍平の剣の使い手としての姿を描く物語だと言えます。

 

全体的に、このシリーズのあとの巻に比べると人情話の趣きが強いと感じます。

このあとは、市井に生きる弱者の悲哀を前面に押し出し、そこに龍平が絡んでいくという流れが多いようですが、本書ではそこまではないようです。

爽やかな龍平の家族が大きな救いとなってくる、痛快時代小説集です。

[投稿日]2018年06月17日  [最終更新日]2024年5月19日

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