佐々木 譲

北海道警察シリーズ

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警官の紋章』とは

 

佐々木譲著の『警官の紋章』は『北海道警察シリーズ』の第三弾で2008年12月に刊行され、2010年5月に出版された文庫版は細谷正充氏の解説まで入れて435頁になる長編の警察小説です。

北海道警察の暗部を描くこのシリーズの本来の構想では最終巻になる筈だった本巻らしく、対組織の物語として非常に読みがいのある作品でした。

 

警官の紋章』の簡単なあらすじ

 

北海道警察は、洞爺湖サミットのための特別警備結団式を一週間後に控えていた。そのさなか、勤務中の警官が拳銃を所持したまま失踪。津久井卓は、その警官の追跡を命じられた。一方、過去の覚醒剤密輸入おとり捜査に疑惑を抱き、一人捜査を続ける佐伯宏一。そして結団式に出席する大臣の担当SPとなった小島百合。それぞれがお互いの任務のために、式典会場に向かうのだが…。『笑う警官』『警察庁から来た男』に続く、北海道警察シリーズ第三弾、待望の文庫化。(「BOOK」データベースより)

 

北海道警察本部安全部企画部長の日比野一樹警部補は、「郡司事件」の件の百条委員会で証言するする予定の日の前日、「守るべきものを間違えるな。お前は津久井とは違うはずだ。」と言われ、そのまま踏切へ侵入し、自殺してしまう。

そして二年後、佐伯宏一は過去の覚醒剤密輸事件おとり捜査の再調査を始め、津久井は洞爺湖サミット警備の遊軍として本部警務部へ出向となる。

また、小島百合は本部の警備部警護課へ出向し、サミット特命担当大臣の上野麻里子の警備に就くことになった。

ところが、自殺した日比野一樹警部補の息子の日比野伸也巡査が拳銃を所持したまま行方不明となる事件がおきたのだ。

そこで一旦は大臣の警護のSPたちの運転手に回された津久井だったが、すぐに日比野巡査の捜索を命じられるのだった。

 

警官の紋章』の感想

 

作者の佐々木譲によれば、「そもそもこのシリーズの最初は『笑う警官』に始まる三部作の構想だった」そうです。

そこらで角川春樹社長から、「十作は続けようと発破を掛けられました。」とのことですから、その当初の構想通りに「組織悪と個人の戦いという構図」で書き進められた三作目が本書『警官の紋章』ということになります。

この点は、本書の解説を担当されている細谷正充氏も、「本書は、『笑う警官』から始まった、ひとつの事件を軸にした三部作の完結編である」と書いておられます。

シリーズ第四巻目の『巡査の休日』で感じた、第四作目ともなると組織体個人の対決の構図はあまり感じられなくなった、との私の印象はあながち的外れではなかったということです。

 

 

本書『警官の紋章』では、日比野巡査の行方を追う津久井卓巡査部長と、サミット担当大臣の警護を命じられた小島百合巡査、そして自分が外された密輸事件の再捜査をおこなう佐伯宏一警部補が、それぞれに自分の職務を忠実に執行している様子がただ淡々と、しかしリアルに語られます。

そもそも津久井卓巡査部長は、『北海道警察シリーズ』第一巻の『笑う警官』で北海道警察の腐敗の象徴であった郡司事件についての百条委員会で、自分の信念に基づいて警察に不利な証言をしようとして射殺命令の対象となったのでした。

そして佐伯警部補と小島巡査もまた自分の信念に基づいて道警という組織に逆らい、津久井の無実の証明に助力したのですから、やはり彼らなりの正義を身をもって貫いた人物たちです。

その彼らが、本書においても自らの警察官としての仕事を全うする姿がリアルに描かれているのです。

 

本書『警官の紋章』では、場面は三人の視点が次々に入れ替わり、それでいてそれぞれの仕事の内容が絡み合うことなく素直に読み取れます。

加えて、佐々木譲という作家の持ち味でもあると思うのですが、主観描写があまりなく、さらには登場人物たちの行動が信念に基づいたものであるというハードボイルドタッチで進む点も私の感覚に合うと思われます。

まさに王道の警察小説であり、三人の姿自体が作者の思う正義の体現者であると言っても良さそうです。

 

そうした意味ではこの『北海道警察シリーズ』は高村薫の『マークスの山』や乃南アサの『凍える牙』と同系統の作品と言えるのかもしれません。

しかし、共に重厚で読みごたえのある作品という点では似ているとは言えても、なにより少なくとも本書までの三部作においては腐敗した道警という個人対組織という観点で描かれているところはかなり異なります。

 

 

本書のタイトル「警官の紋章」という言葉の抱える意味がクライマックスで明かされます。

その意味が情緒過多と取れそうであっても、それまでの物語の運びの内容からすると素直に、いやそれ以上に真っ直ぐに読み手の心に迫ってくる点は見事なものです。

本書は、ここでいう「警官の紋章を胸に刻んだ者」すなわち「法のまっすぐな執行官とろうとするもの」を描いた作品だと言えるのです。

ただ、本書『警官の紋章』の後始末のやり方は現実味に乏しいともいえるかもしれません。

しかし、そうした処理もまあいいかという気にさせられるのはやはりこれまで語られてきた物語の力かもしれません。

[投稿日]2022年04月22日  [最終更新日]2022年4月22日
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