佐々木 譲

イラスト1
Pocket


迷わず撃て。お前が警官ならば――。緊迫の四十時間を描く王道の警察小説。東京湾岸で射殺体が発見された。蒲田署の刑事は事件を追い、捜査一課の同期刑事には内偵の密命が下される。所轄署より先に犯人を突き止めよ――。浮かび上がる幾つもの不審死、半グレグループの暗躍、公安の影。二組の捜査が交錯し、刑事の嗅覚が死角に潜む犯人をあぶり出していく……。比類なき疾走感で描ききる本格捜査小説。(「内容紹介」より)

蒲田署管内で暴力団の幹部が射殺されます。管轄の蒲田署は警視庁による捜査本部設置の前に解決をするべく意気込みますが、なかなか捜査は進展しません。そのうちに暴力団抗争の線が薄くなり、代わりに半グレ集団の線が浮かびあがってきて、蒲田署盗犯係の波多野涼巡査長と先輩である門司孝夫巡査長も捜査の手伝いをすることになるのです。

一方、警視庁捜査一課の管理官は他の事件とのかかわりから、犯人が警察官である可能性を疑い、警視庁捜査一課の松本章吾とその上司である綿引警部補に特命を下し、蒲田署とは別に極秘裏の捜査を命じるのでした。

波多野と松本は警察学校の同期であり、ある事件で松本が波多野の危険を救ったという関係もありました。


このふた組の捜査状況が交互に、それも克明に描写され、緊迫感を高めていくのです。これまでの佐々木譲の作品では、『警官の血』でも直木賞受賞作品である『廃墟に乞う』でも、重厚な物語の流れの中での人間ドラマを描いてありました。

しかし、本作では四十時間という時間制限を設け、迫りくる時間的制約の中で捜査状況を緻密に描写することでサスペンスフルに盛り上げていくのです。それは具体的な警察捜査の実況を見ているようでもあり、読者が感情移入をするに十分な精密さだと思います。

もちろん、これまでの佐々木譲作品とは少しですがタッチが異なるにしても、描かれている人間模様は変わらずに面白く、警察小説の中でも異色といっていいかもしれません。

ただ、このふた組を交互に、それも頻繁に描写しているため、ともすれば話がもつれ、ストーリーを見失いがちになりかねないところはありました。しかし、それは読み手がほんの少しだけ気をつければいいだけのことであり、物語が面白いものであることに変わりはありません。

それどころか、かえって物語が緊迫感を持ってきて結末へ向けての疾走感をももたらしてくれるようです。

確かにこれまでの佐々木譲作品とは少々異なる物語にはなっていますが、やはり面白い作品でした。

[投稿日]2017年08月27日  [最終更新日]2020年3月11日
Pocket

おすすめの小説

おすすめの警察小説

推理小説の分野は佳品が多く絞ることが難しい分野ですね。個人的な、あくまで個人的な参考意見だと思ってください。
隠蔽捜査シリーズ ( 今野 敏 )
正論を正論として生き抜くキャリアが主人公です。
凍える牙 ( 乃南 アサ )
「女刑事・音道貴子シリーズ」の一冊で、重厚な作品で読み応えがあります。直木賞受賞作です。
マークスの山 ( 高村 薫 )
直木賞受賞作品。この本を含む「合田雄一郎刑事シリーズ」は骨太の警察小説です。
新宿鮫 ( 大沢 在昌 )
「新宿鮫」シリーズは、キャリアでありながら第一線で捜査活動を行う新宿署の鮫島警部の活躍が描かれます。シリーズ三作目の『無間人形』で直木賞を受賞しています。
姫川玲子シリーズ ( 誉田 哲也 )
「姫川玲子シリーズ」の一作目であり、警視庁捜査一課殺人犯捜査係の姫川玲子を中心に、刑事たちの活躍が描かれます。若干猟奇的な描写が入りますが、スピーディーな展開は面白いです。

関連リンク

佐々木譲 『犬の掟』 | 新潮社
さまざまなタイプの警察小説を発表してきた佐々木譲が、このたび新たな意欲作を上梓した。《週刊新潮》に昨年夏から約一年間連載されてきた『犬の掟』がそれだ。
佐々木 譲さん:おとなの煙談 : カルチャー : YOMIURI ONLINE
警察小説や歴史小説を筆頭に、第二次大戦史を素材とした小説やノンフィクションなど幅広いジャンルの作品を発表している佐々木譲さん。創作の原動力や書き手として大切にしていること、現在のライフスタイルなどを聞いた。
【戦士の休息】作家・佐々木譲さん 現場で真剣・誠実に生きる人間描く
直木賞受賞作『廃墟に乞う』や長編小説『警官の血』、北海道警察の警察官を主人公とする「道警シリーズ」などの警察小説が人気の佐々木譲氏。
佐々木譲さん「私は地図が好きなんです」 ベテラン作家の異色作
1979年、青春小説で文壇デビュー。その後、サスペンス、冒険小説、歴史ロマンと幅を広げ、さらには警察小説に新風を吹き込み直木賞を射止めた。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です