佐々木 譲

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市長選に出ろ。オフィスに現れた選挙コンサルタントは、いきなりそう告げた。夕張と隣接し、その状況から双子市と称される幌岡市。最年少市議である森下直樹に、破綻寸前のこの町を救えというのだ。直樹の心は燃え上がってゆく。だが、二十年にわたり幌岡を支配してきた大田原市長が強大な敵であることに違いはない。名手が北海道への熱き想いを込めた、痛快エンターテインメント。(「BOOK」データベースより)

 

北海道の夕張市をモデルにした、とある地方自治体の破綻を描く長編の政治小説です。

 

作者の佐々木譲と言えば、警察小説もしくはハードボイルド小説の第一人者として名の通った作家さんです。

しかし、本書は警察小説やハードボイルド小説ではなく、財政再建団体に転落しようとするとある市の市長選に立候補しようとする一人にの若手市議の奮闘を描いた作品です。

 

そもそも、作者は何のために本書を描いたのかという点が気になります。

つまり、仮に、本書の惹句にあるように、夕張の状況をもとに痛快小説を書こうとしたのであれば、端的に言って、人気の警察小説ほどの面白さはありませんでした。

仮に夕張市が財政再建団体へと転落していく原因を作った、「夕張の中田哲司元市長とその多選を支え続けてきた翼賛的な市議会」への告発だとすれば、今度は幌岡市の現状描写が物足りない気はします。

どちらにしても、本書の惹句にある「痛快エンターテインメント」だとは言えず、どうにも消化不良の印象です。

 

本書の「解説」を書かれている佳多山大地氏によれば、本書は読売新聞北海道版に連載されたルポルタージュ「夕張ふたたび」の時の長期取材時の蓄積をもとに小説化されたものだそうです。

確かに、作者である佐々木譲自身の出身地でもある北海道夕張市の事情についてはよく調べられているし、夕張市の財政再建団体への転落に次いでの悲憤も強く感じます。

そして、長期政権による放漫財政と監視機能を失った議会という夕張市の状況を双子市とも称される本書の舞台幌岡市に置き換えている点もわかります。

しかし、痛快小説としての爽快感はありません。

 

本書の主人公である幌岡市の最年少市議である森下直樹が立候補を決心し、マスコミにその意思を公開したのは全体の三分の二を過ぎたあたりです。

そのこと自体は別にいいのですが、主人公の立候補を明言するまでの物語の動きは幌岡市の現況を説明するだけのものでしかありません。

それはつまりは夕張市への悲憤であり、告発であるとしか思えず、物語としての興味は半減しています。

 

また、いざ明言したのちに主人公に降りかかる反対派からの切り崩しや怪文書などの嫌がらせもあまりインパクトはなく、そうした事実があったという報告でしかありません。

つまりは痛快小説としての面白さがないとしか感じませんでした。

 

本書が告発小説でも痛快小説でも、どちらにしても物足りない印象を持ってしまったということになります。

佐々木譲という作家でしたらもう少しいわゆる面白い小説を期待できたはずだと思うだけに残念でした。

[投稿日]2020年06月18日  [最終更新日]2020年6月29日
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