『巡査の休日』とは
本書『巡査の休日』は、2009年10月刊行の『北海道警察シリーズ』の第四弾作品で、2011年5月に西上心太氏の解説で370頁で文庫化された長編の警察小説です。
本書から道警との対立の構図が薄れ、そのためか全体的に焦点がぼけた印象がありますが、そこはシリーズ物の強みでそれなりの面白さは維持されている作品でした。
『巡査の休日』の簡単なあらすじ
神奈川で現金輸送車の強盗事件が発生し、犯人の一人に鎌田光也の名が挙がった。鎌田は一年前、ストーカー行為をしていた村瀬香里のアパートに不法侵入したところを小島百合巡査に発砲され、現行犯逮捕された。だが、入院中に脱走し指名手配されたまま一年が経ってしまっていたのだ。一方、よさこいソーラン祭りで賑わう札幌で、鎌田からと思われる一通の脅迫メールが香里の元へ届く。小島百合は再び香里の護衛につくことになるのだが…。大人気道警シリーズ第4弾。(「BOOK」データベースより)
前巻のシリーズ第三作『警官の紋章』で捕まった鎌田光也でしたが、本書冒頭で入院先から脱走してから一年が過ぎ、依然その行方は分かっていません。
そんな中、鎌田の起こした事件の被害者である村瀬香里のもとに鎌田からのものと思われる脅迫メールが届きます。
そのため、鎌田逮捕に尽力した大通署生活安全課の小島百合巡査は、村瀬香里の密着警護のために、村瀬香里が参加するよさこいソーラン祭りの演舞にも参加することになるのでした。
『巡査の休日』の感想
本書『巡査の休日』は、『北海道警察シリーズ』第四作の長編警察小説で、前作『警官の紋章』の一年後の佐伯らの様子が描かれています。
登場人物も佐伯宏一警部補、佐伯の部下の新宮昌樹巡査部長、津久井卓巡査部長、小島百合巡査といったいつものメンバーが顔を揃えています。
本シリーズ第一作の『笑う警官』は、北海道警察で起きた一大不祥事といわれるいわゆる北海道警裏金事件や「稲葉事件」などを題材に描かれた作品で、基本的に北海道警察の闇をテーマに描かれていました。
そのため、シリーズ第三作の『警官の紋章』までの『北海道警察シリーズ』三作は組織対個人という図式で描かれていたのですが、第四作目の本書ともなるとその構図はあまり感じられなくなったようです。
ただ佐伯の行動などを見ていると、まだその腐敗組織との対立構造の図式が無くなったとまでは言えないようです。
そんななか本書『巡査の休日』では、小島百合巡査の行動を中心に鎌田の加害行為を何とか食い止めようとする姿が描かれています。
津久井卓や佐伯宏一といったいつもの面々も登場し、シリーズものの強みもあります。
ただ、対組織という対立構造色が薄れているためか、若干焦点が定まらない印象はありました。
物語のもつ緊張感もあって、佐々木譲作品としての面白さは勿論あるのですが、何となくの間延び感があるのは何故でしょう。
シリーズ前作『警官の紋章』でも、結末が少々現実感に欠けるところがあり、まとめ方として無理があるのではないかと感じたのですが、本作は少しですが話の筋自体がまとまりを欠いているという印象でした。