佐々木 譲

イラスト1
Pocket

新刊書

新潮社

写真は Amazon にリンクしています。

楽天Booksは 沈黙法廷 [ 佐々木 譲 ] へ。


東京・赤羽。絞殺死体で発見されたひとり暮らしの初老男性。親譲りの不動産を所有する被害者の周辺には、多くの捜査対象が存在する。地道な鑑取り捜査の過程で、家事代行業の女性が浮上した。しかし彼女の自宅に赴いた赤羽署の捜査員の前に、埼玉県警の警察車両が。彼女の仕事先では、他にも複数の不審死が発生していた―。舞台は敏腕弁護士と検察が鎬を削る裁判員裁判の場へ!無罪を主張する被告は証言台で突然、口を閉ざした。有罪に代えても守るべき何が、彼女にあるのか?丹念な捜査、緊迫の公判。新機軸の長編ミステリー。

ある殺人事件の捜査と、その捜査を受けて為される裁判の様子を緻密に描き出した長編のミステリー小説です。

本書は佐々木譲の描くこれまでの警察小説とは若干ですが、その雰囲気が異なっています。捜査状況の描き方が実に緻密なのです。現実の捜査の状況もそうなのだろうと思い描くことが楽にできそうなまでに克明な描写です。

その捜査ですが、本書では本殺人事件を管轄する赤羽署の捜査員と、もう一件の埼玉県警で起きた事案に関連して埼玉県警の捜査状況とが並行して描かれます。

メインの描写は赤羽の事件ですが、ここで赤羽署のベテラン刑事と組んでいる本庁から送り込まれた一課の刑事が若干問題のある刑事であり、この先の見込み捜査が示唆されています。

本事案ではすぐにある家事代行業者の女性が被疑者として浮かびますが、この女性に関しては埼玉県でも疑わしい事案が発生しており、両警察の面子をかけた捜査になってきて、本庁の刑事の意見が重視されるのです。

両警察の競い合いの描写もさることながら、警察上部の判断に、捜査をする中で浮かんできた事実以外の要素が入り込んでくることも、その先は冤罪へと道が続いているのだと痛感させられます。

彼らの捜査が進んで犯人と目される家事代行業者の起訴までたどり着くと、この物語の後半部に入り、法廷での場面が展開されます。ここからは、視点が容疑者の恋人と思われる一人の傍聴人の目線になり、客観的な視点での物語となります。

前半で捜査状況が克明に描写されていたのは、捜査現場のあり方が、本書後半での裁判員裁判の法廷での弁論の在り方、つまりは裁判の方向性に反映するからなのかもしれません。

勿論、裁判の実際は基本的に事務的な手続きの連続ですので、回想の場面などは入るのですが、極力現実の裁判に即した描写が為されています。でも、ここの第三者目線での法廷描写はなかなかに読み応えのあるものでした。


これまでの法廷小説と言えば、名作と言われる 高木彬光の『破戒裁判』にしても、近年ミステリー作家として評価の高い 柚月裕子の「佐方貞人シリーズ」の一巻目『最後の証人』にしても、裁判を進める中で、捜査権を持つ警察なり、弁護士の調査などで新事実が見つけられ、意外な展開になるという筋立てが一般ではありました。

前者『破戒裁判』は全編が法廷での検察、弁護人のやり取りで成り立っている珍しい構成の本です。ただ、主人公である弁護士の豊富な資金で十分な調査をし、被告人の有理な証拠を探し、法廷で新事実を提示して真実を見つけ出すという物語でした。

また『最後の証人』もまた、新しい事実を探り出して圧倒的不利な状況にある被告人を救い、かつ、事件の真実の姿を暴き出すという話でした。ただ、その真実が必ずしも被告人の有利になるものではない、という何とも微妙な、しかしながら物語としては面白い作品でした。

しかし、本書『沈黙法廷』はそうした派手な展開はありません。勿論ミステリーとしての意外性はそれなりに有したままで、現実の裁判の進行過程を忠実になぞりながらの真実解明、という点に重きを置かれています。本書の最後に作者が本書の監修をされた弁護士に対する謝辞を書かれているように、ミステリーとしての面白さは抱えながらも実務からの目線にも耐えうる物語として裁判員裁判の実情が描かれているのです。

一方、そうしたメインとなる物語とは別に、被告人となっている家事代行業者の女性と、後半の視点の主である男性との恋模様とがサブストーリー的に描かれていて、それがこの物語の救いの話、として生きているようです。

ちなみに、本書は2017年9月より、WOWWOWにおいて、全五話のドラマとして、永作博美、市原隼人他のキャストで放送されています。

[投稿日]2018年01月15日  [最終更新日]2018年1月15日
Pocket

おすすめの小説

おすすめの警察小説

半落ち ( 横山 秀夫 )
妻を殺害した警察官である主人公の梶は、自首はしてきましたが、妻を殺害後自首までの二日間の行動については語ろうとしません。彼は何故に全てを語ろうとはしないのか。一大ベストセラーとなった作品です。
検察側の罪人 ( 雫井 脩介 )
「時効によって逃げ切った犯罪者を裁くことは可能か」という問いが着想のきっかけだというこの作品は、二人の検事それぞれが信じる「正義」の衝突の末に生じるものは何なのか、が重厚なタッチで描かるミステリーです。
新参者 ( 東野 圭吾 )
卒業―雪月花殺人ゲームを最初とする「加賀恭一郎シリーズ」は、この作家の「ガリレオシリーズ」と並ぶ超人気シリーズです。
傍聞き ( 長岡 弘樹 )
長岡弘樹著の『傍聞き』は、四編の短編を収めた推理小説集です。どの物語もトリックのアイディアがユニークで、人物の心理をうまくついた仕掛けは、新鮮な驚きをもたらしてくれました。第61回日本推理作家協会賞(短編部門)を受賞した作品でもあります。
教場 ( 長岡 弘樹 )
警察小説というには少々語弊があり、警察学校小説というべきなのかもしれませんが、ミステリー小説として、警察学校内部に対するトリビア的興味は勿論、貼られた伏線が回収されていく様も見事です。

関連リンク

佐々木譲 『沈黙法廷』 | 新潮社
周囲で連続する不審死。被告人の女性は証言台で突然口を閉ざした。警察小説と法廷小説が融合した傑作
「沈黙法廷」法律監修について | 立川フォートレス法律事務所
WOWWOWで放映されている「沈黙法廷」というドラマの法律監修を担当いたしました。もともと、本ドラマの原作について法律監修としてお付き合いをさせていただいたご縁で、ドラマ化も担当したという流れでした。
連続ドラマW 沈黙法廷 | ドラマ | WOWOW
『廃墟に乞う』『警官の血』など数々の警察小説を手掛けてきた直木賞作家・佐々木譲の初の法廷小説をWOWOWにて連続ドラマ化!主演に永作博美をむかえ、豪華キャストでおくるリーガルサスペンス!!
連続ドラマW 沈黙法廷 | WOWOWオンライン
直木賞作家・佐々木譲の渾身作を、永作博美主演で映像化。連続する老人の不審死について、無罪を主張する家事代行の女は証言台で口を閉ざす。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です