本書『春淡し: 吉原裏同心抄(六) 』は、吉原裏同心抄シリーズの第六弾です。
いよいよ本『吉原裏同心抄シリーズ』も最終巻となったようです。今後の神守幹次郎と汀女、麻、それに吉原の行く末はどうなるのか、今後の展開が待たれます。
高齢の四郎兵衛に代わり、廓を御する吉原会所の八代目頭取を誰が継ぐのか。五丁町名主の話し合いは紛糾し、画策や探り合いが始まった。新春の吉原、次期頭取候補と目される神守幹次郎を狙い、送りこまれる刺客に、張られる罠。危機を覚えた幹次郎は、故郷の豊後岡藩藩邸を訪れるとともに、ある決意を固める。吉原百年の計を思い、幹次郎の打つ、新たな布石とは。(「BOOK」データベースより)
寛政三年(一七九一)師走、吉原会所で開かれた町名主の集まりで神守幹次郎の八代目頭取就任についての話し合いがもたれた。当然のことながら反対意見はあり、なかでも駒宮楼六左衛門の反対は激しいものがあった。
新たな年を迎えた幹次郎らが浅草寺へと初詣に行った留守宅が襲われ、仔犬の地蔵が攫われる。しかし、同心桑原市松の助けを借り、駒宮楼の娘婿の直参旗本小普請組淀野孟太郎を倒し、地蔵を助け出すのだった。
旧藩の豊後岡藩江戸藩邸への年賀の挨拶の帰りに読売屋に自身の旧藩への復縁を漏らしてしまった幹次郎は、そのことで会所の七代目四郎兵衛から永の謹慎処分を受けることになる。
本『吉原裏同心抄シリーズ』も最終巻となってしまいました。
神守幹次郎の吉原会所八代目就任という思惑は、吉原の町名主全員の承諾という難題が待ち構えていて、案の定、この問題は紛糾することになります。
結局は自らが会所の頭になりたいという名主の存在がある以上は意見の一致を見ることは叶わないでしょう。
そこで本書『春淡し』では、幹次郎の八代目就任反対の旗頭である駒宮楼関係者の暗躍に対する幹次郎の姿が描かれることになります。
とはいえ、物語としての大きな流れは幹次郎の八代目就任の前に、一旦、京の島原遊郭という吉原の手本となった地へと主人公らを動かすことにあったようです。
その京への旅は一人旅なのか、それとも幹次郎の傍にはだれかいるのかが気になります。
京の島原遊郭を描いた作品としては、最初に思い浮かべるのは浅田次郎が書いた新撰組三部作の一冊である『輪違屋糸里』です。
この作品は、新選組の話の中でも芹沢鴨の暗殺を中心に据えた物語であり、直接的には新選組を取り巻く女たちの物語でした。映画化もされた作品です。
そこに出てきた「角屋」という大店は今でもあります。
ともあれ、本書『春淡し: 吉原裏同心抄』では自らが八代目頭取になろうとする駒宮楼の主六左衛門とその娘のお美津などの画策を退ける幹次郎の姿が描かれます。
ただ、定番の構図とは言え、駒宮楼の主父娘の行動は少々雑に過ぎ、魅力的な敵役とは到底言えない存在ではあります。
その点は少々残念ではありますが、今後の展開が読めないだけに、そちらに期待が持たれます。