『一夜の夢 照降町四季(四)』とは
本書『一夜の夢 照降町四季(四)』は、『照降町四季シリーズ』の第四弾で、文庫本で368頁という長さの長編の痛快人情時代小説です。
本書では佳乃の姿は脇へと追いやられ、照降町の復興の姿が描かれてはいるもののそれは背景でしかなく、結局は八頭司周五郎という浪人の痛快時代小説になっている物語です。
『一夜の夢 照降町四季(四)』の簡単なあらすじ
派閥争いで命を落とした周五郎の兄。存続の危機に立たされた旧藩・豊前小倉藩から呼び出された周五郎は、照降町を去らなくてはならないのか。そして、佳乃との関係はー大火から九ケ月、新設された中村座で佳乃をモデルにした芝居の幕が開く。大入り満席の中には、意外な人の姿があった。勇気と感動の全四巻ついに完結!(「BOOK」データベースより)
八頭司周五郎は、二年数か月ぶりに、実家の八頭司家のある豊前小倉藩十五万石小笠原家の江戸藩邸を訪れた。兄裕太郎が何者かに殺されたというのだ。
周五郎は、当主を失った八頭司家の、そして豊前小倉藩の先行きを考えなければならず、兄の死は病死として処理される必要があった。
そこで当代藩主小笠原忠固の直用人鎮目勘兵衛に会い、兄裕太郎の死の真相を告げ、藩のためにも病死としての届け出を願い出た。
ところが、その足で藩主の忠固本人に会うこととなり、つまりは周五郎の藩内の内紛へのかかわりを余儀なくされることになるのだった。
『一夜の夢 照降町四季(四)』の感想
前巻の『梅花下駄 照降町四季(三)』では、「佳乃が主人公の人情話というには無理がありそうな展開」と書いたのですが、本書『一夜の夢 照降町四季(四)』でもその言葉はそのままにあてはまりそうです。
というのも、本書冒頭早々に八頭司周五郎の兄八頭司裕太郎の死が告げられ、兄の死は小倉藩の内紛に巻き込まれての落命であったことが示されます。
そして、当然のごとく藩内抗争に巻き込まれる周五郎がいて、早晩照降町から消えなければならない定めが示唆されています。
その後、己丑の大火で焼失した照降町の復興の様子を挟みながら、結局は周五郎の活躍する姿が描かれることになります。
つまりは、佐伯泰英の他の『居眠り磐音江戸双紙シリーズ』(または『居眠り磐音シリーズ』)や『酔いどれ小籐次シリーズ』などの痛快時代小説と同じく、市井に暮らす浪人が、かつて仕えていた藩内の抗争などに巻き込まれ、藩主に助力してその抗争を終わらせる、という定番の物語になってしまっているのです。
それは、せっかくの佐伯泰英の新しい試みと思えた本『照降町四季シリーズ』も従来の佐伯泰英の物語と同様であり、何ら変化はなかったという他ありません。
本『照降町四季シリーズ』は、当初こそ鼻緒挿げ職人の佳乃という女性を中心にした物語であり、若干の新鮮味を感じなくもありませんでした。
しかし、結局は八頭司周五郎という浪人の物語へと変化していき、それで終わったというほかない話だったと言うしかありません。
本書『一夜の夢 照降町四季(四)』でこの『照降町四季シリーズ』は終わることになるのですが、どうにも微妙なシリーズというしかないと思います。