『狐火の杜 ─ 居眠り磐音江戸双紙 7』とは
本書『狐火の杜 ─ 居眠り磐音江戸双紙 7』は、『居眠り磐音江戸双紙シリーズ』の第七巻の、文庫本で355頁の長編の痛快時代小説です。
本書ならではの特別な出来事というよりはシリーズの流れに乗っていて、磐根の波乱万丈の日常がいつものとおりに描かれています。
『狐火の杜 ─ 居眠り磐音江戸双紙 7』の簡単なあらすじ
晩秋の風情が江戸を包む頃、深川六間堀、金兵衛長屋に住む坂崎磐音は相も変らぬ浪々の日々を送っていた。そんな折り、両替商・今津屋の心遣いもあり、働きづめのおこんの慰労を兼ねて、品川柳次郎らと紅葉狩りにでかけたが、悪行をなす不埒な直参旗本衆に付け狙われて…。春風駘蕩の如き磐音が許せぬ悪を薙ぐ、大好評!痛快時代小説第七弾。(「BOOK」データベースより)
今津屋吉右衛門の内儀である艶の葬儀も済み、おこんの慰労を兼ねての紅葉狩りでも暇を持て余した旗本の部屋住との騒動も決着をつけた磐根だった。
その磐根には、不満を抑えつつ何とか産物の品質向上に努める話し合いができたとの中居半蔵からの文が届いていた。
また、磐根の加賀行きの折に縁を持った鶴吉の問題の処理を終えた磐根のもとに、中川淳庵を狙う血覚上人を頭にする裏本願寺別院奇徳寺一派が再び淳庵をつけ狙っているという報せがもたらされた。
さらに能登湯の主の加兵衛の頼みごとを片付けた磐根だったが、王子稲荷への新しい幟を納める由蔵とおもんの共をしながら、噂の王子稲荷で見られるという噂の狐の行列の見物へ行くことになる。
ところが、狐の行列の見物中にお紺がさらわれてしまうのだった。
『狐火の杜 ─ 居眠り磐音江戸双紙 7』の感想
本書『狐火の杜 ─ 居眠り磐音江戸双紙 7』は、前巻『雨降ノ山』と同様に、再び取り戻した江戸での日常の延長線上にある物語です。
関前藩の産物を江戸で売りさばくという関前藩の財政再建の話は進捗状況が少しだけ示されるだけで、本書での話は細かな個別のエピソードで構成されているのです。
最初は、艶の看護や葬儀で気の遣い通しだったおこんのために企てられた紅葉狩りの際に出会った旗本の部屋住みの連中とのいざこざがあります。
次いで、加賀の金沢で縁を持った鶴吉が磐根を訪ねてきてひと騒動が巻き起こります。
また、これまでも登場してきた磐根の長崎行きの折に知り合った中川淳庵を付け狙う血覚上人の一味がいて、この一味との事件が語られますが、この話決着は次巻への持ち越しとなっています。
次いで、馬喰町の能登湯の主の加兵衛の頼みごとを解決し、最後に王子稲荷で毎夜狐の行列見物に言った際におこんが攫われるという事件がおきるのです。
本書では、このように小さなエピソードが語られる痛快時代小説の典型と言える構成になっています。
先に述べたように、シリーズを通しての関前藩の再建などの大きな流れはその様子が紹介されるだけです。
その意味では特別なことは何も起きない回だということができると思います。
普通に痛快時代小説として単純に楽しんで読むべき巻だということでしょう。
大河小説である以上はこうした回もあってしかるべきでしょうし、一息ついた巻だということができるかもしれません。