地下鉄に乗って

地下鉄に乗って』とは

 

本書『地下鉄に乗って』は、1995年に発刊され、2020年に新装版で出版された文庫本では368頁になる、ファンタジックな長編小説です。
第16回吉川英治文学新人賞を受賞した、家族の姿を描く作品で、浅田作品らしく心を打つ物語です。

 

地下鉄に乗って』の簡単なあらすじ

 

地下鉄駅の階段を上がると、そこは三十年前の、家族と暮らした懐かしい町。高校生で自殺をした兄の命日となる日だった。兄の姿を見つけた真次は運命を変えようとするが、時間を行き来するうちにさらなる過去にさかのぼり…。いつの時代も懸命に生きた人びとがいた。人生という奇跡を描く、感動の傑作長編。(「BOOK」データベースより)

 

主人公小沼信次には同じ会社の同僚である恋人軽部みち子がいました。

小沼信次が同窓会の帰り地下鉄の駅で恩師と出会ったある日、地上に出るとそこは奇妙な風景の場所でした。

今は死の床にある厳格な父との折り合いが悪く家を出ていた小沼信次は、兄の死の直前の時代の実家近くにタイムスリップをしたのです。

その後、その恋人も共に何度も過去に戻り、その度に若かりし頃の父小沼佐吉と出会います。

そして、父の来し方をたどることになり、その生きざまを見ることになるのです。

 

地下鉄に乗って』の感想

 

父親に対する微妙な想いが読みやすい文章で語ってあり、最後にひねりを効かせてあります。やはり浅田次郎作品だと思わされました。

 

映画版の『地下鉄に乗って』を先に見ていたのですが、筋立てはそれほど外れているわけではなく、原作の雰囲気がよく出ていました。その意味では映画もかなり良い出来だったと思います。

ただ、映画は主人公の小沼信次と父親の小沼佐吉との物語という印象だったのです。しかし、原作は主人公と恋人のみち子との物語こそ本筋だとの印象でした。

 

 

私が読んだ小説は「特別版」と書かれた新刊書なのですが、その最後には「『地下鉄(メトロ)に乗って』縁起」と題されたあとがき風のエッセイがありました。

このあとがきがなかなかに読ませるもので、本作品を書くきっかけや、浅田次郎の父親のこと、本書が私小説的側面もあること、などが書かれています。文庫版にも収納されているものか、確認は出来てませんが、出来ればこの部分まで読んでもらいたいものです。

 

 

蛇足ですが、恋人恋人軽部みち子のアパートのある中野富士見町は学生時代の私が半年間だけ住んでいた中野新橋の次の駅です。

丸の内線という地下鉄は四谷辺りで地上には出るし、方南町へは中野坂上で乗り換えなければならない、奇妙な地下鉄でした。バイト先のあった新宿までの電車賃数十円が無かった学生時代でした。

プリズンホテル

浅田次郎原作のヤクザコメディ。オーナーから従業員まで全員がヤクザの“プリズンホテル”で、支配人の息子にして暴走族のヘッド・買mcFクセ者揃いの住人たちと接しながら成長していく。そして、因縁の関西ヤクザとのソフトボール対決の日を迎えるが…。(「キネマ旬報社」データベースより)

 

1996年のVシネマ作品です。

私は未見ですが、とても評価が低いですね。

プリズンホテル

極道小説で売れっ子になった作家・木戸孝之介は驚いた。たった一人の身内で、ヤクザの大親分でもある叔父の仲蔵が温泉リゾートホテルのオーナーになったというのだ。招待されたそのホテルはなんと任侠団体専用。人はそれを「プリズンホテル」と呼ぶ―。熱血ホテルマン、天才シェフ、心中志願の一家…不思議な宿につどう奇妙な人々がくりひろげる、笑いと涙のスペシャル・ツアーへようこそ。(「BOOK」データベースより)

 

文庫本で全四巻のピカレスク風の長編のコメディ小説といったところでしょうか。

 

関東桜会木戸組の初代組長木戸仲蔵がリゾートホテルのオーナーになった。その業界では超大物であり、総会屋としても知らぬ者はいない、らしい。

任侠道を貫くその男の下にはこのホテルの番頭である若頭黒田旭がいる。支配人は大手「クラウンホテル」の元ホテルマンであり、お客様第一主義のため、会社と相容れない立場になっていたところを木戸仲蔵に拾われた。

主人公は木戸仲蔵の甥っ子で木戸孝之介といい、極道小説があたり、当代の売れっ子作家となっている。孝之介の母は若頭の黒田と駆け落ちをし、父は母に逃げられた後程なく死ぬ。

孝之介は寂しい子供時代を送っていて、それが現在の孝之介の性格を形作った一因となっている、と思われる。

 

母が逃げた後、後添えとして入り子供のまま成長していない孝之介を育てた木戸富江や、今の孝之介の愛人となっている田村清子など、他の登場人物も実にユニークで、夫々に掛け合い漫才のような会話を繰り広げています。

自己中心的で暴力的であり、我がまま放題の孝之介を温かく包んでいるのがこの二人なのです。

 

巻毎に少しずつ雰囲気が異なり、巻を追うごとに「平成の泣かせ屋」である浅田次郎の片鱗が少しずつ見えてきたりもします。

軽く読めます。そのくせどことなく心に残る物語です。

一刀斎夢録

感動の浅田版新選組三部作、完結!
近代国家日本の幕開けと壮絶な人間ドラマ。巨大な感動が襲う傑作時代長編 。「飲むほどに酔うほどに、かつて奪った命の記憶が甦る」―最強と謳われ怖れられた、新選組三番隊長・斎藤一。明治を隔て大正の世まで生き延びた“一刀斎”が、近衛師団の若き中尉に夜ごと語る、過ぎにし幕末の動乱、新選組の辿った運命、そして剣の奥義。
沖田、土方、近藤ら仲間たちとの永訣。土方の遺影を託された少年・市村鉄之助はどこに消えたのか。維新後、警視庁に奉職した斎藤は、抜刀隊として西南戦争に赴く。運命の地・竹田で彼を待っていた驚愕の光景とは?
慟哭の結末に向け、香りたつ生死の哲学が深い感動を呼ぶ完結篇。( 上巻 : 「BOOK」データベースより)

沖田、土方、近藤ら仲間たちとの永訣。土方の遺影を託された少年・市村鉄之助はどこに消えたのか―維新後、警視庁に奉職した斎藤一は抜刀隊として西南戦争に赴く。運命の地・竹田で彼を待っていた驚愕の光景とは。百の命を奪った男の迫真の語りで紡ぐ鮮烈な人間ドラマ・浅田版新選組三部作、ここに完結。( 下巻 :「BOOK」データベースより)

 

文庫本で上下二巻の、新選組三部作の第三弾の長編時代小説です。

新選組の斎藤一の名前をひっくり返して読みの漢字を少々変えると「一刀斎」。

作者によれば、子母澤寛の「新選組遺聞」の中に記されているが、その存在が確認されていない「夢録」(むろく)という口述記録を「捏造してしまった」のだそうです。

 

本書も、明治時代をも生き抜いた斎藤一の語る言葉を聞く、という形で物語は進みます。

聞き手は全国武道大会の決勝まで進む腕を持つ近衛師団の梶原中尉という人物です。梶原の連夜の訪問に、斎藤一は煩わしい風を装いながらも語り聞かせます。

その斎藤一の語りは新選組の成立の当初から消滅に至るまでを網羅するものなのですが、主に三部作の他の二冊で語られていない事実について語られています。

それは途中から新選組を離脱し御陵衛士を結成した伊東甲子太郎(いとう かしたろう)の暗殺(油小路事件)や、坂本竜馬の暗殺事件の真相にも触れ、更に維新時の会津での戦いや明治に入ってからの西南の役にまで及びます。

 

壬生義士伝』は吉村貫一郎という人間を通して家族を語り、『輪違屋糸里』では芹沢鴨暗殺事件を語り、そして両者ともに各人の話を通して新選組を語っていました。でも本書は斎藤一という人斬りを自らの仕事とした個人を描くことで新選組を語っているようです。

 

実は、浅田次郎作品を読むのは本書が最初でした。

2013年のNHK大河ドラマ「八重の桜」を見て斎藤一と言う人物に関心を持っているところで本書に出会い、読んでみたのです。浅田次郎の作品を読んだのは本書が初めてだったこともあり、かなりの衝撃を受けました。

 

 

ベストセラーであることも後に知りました。この後この作家の作品を立て続けに読んでいますがどの作品も外れがありません。

是非一読されることをおすすめします。

陽炎の辻 居眠り磐音 [ コミック ]

作者のかざま鋭二という人は、ビッグコミックオリジナルで『風の大地』というゴルフ漫画を書いていた人ですね。この漫画は熊本でゴルフ教室を開いている坂田信弘氏が原作を書いていて、ゴルフをやらない私はこの本で坂田信弘氏のことを知りました。

ひと昔前は高橋三千綱氏の原作で野球漫画も書かれていて、よく読んだものです。しかしながら、本書は未読です。

陽炎の辻 ~居眠り磐音 江戸双紙~ [ DVD ]

山本耕史の磐根が何とも良い雰囲気ではあります。ただ、磐根の着ている着物の仕立が良すぎて、市井の素浪人である設定と違い過ぎるのがかなり気になりました。

中越典子は個人的好みもあり、なかなか感じが良い娘でしたね。

物語自体は、45分と言うNHKのドラマなので、あんなものかな、と。決して面白くないということではありません。

鎌倉河岸捕物控シリーズ

鎌倉河岸捕物控シリーズ(2018年04月22日現在)

  1. 橘花の仇
  2. 政次、奔る
  3. 御金座破り
  4. 暴れ彦四郎
  5. 古町殺し
  6. 引札屋おもん
  7. 下駄貫の死
  8. 銀のなえし
  9. 道場破り
  10. 埋みの棘
  11. 代がわり
  1. 冬の蜉蝣
  2. 独り祝言
  3. 隠居宗五郎
  4. 夢の夢
  5. 八丁堀の火事
  6. 紫房の十手
  7. 熱海湯けむり
  8. 針いっぽん
  9. 宝引きさわぎ
  10. 春の珍事
  11. よっ、十一代目!
  1. うぶすな参り
  2. 後見の月
  3. 新友禅の謎
  4. 閉門謹慎
  5. 店仕舞い
  6. 吉原詣で
  7. お断り
  8. 嫁入り
  9. 島抜けの女
  10. 流れの勘蔵

時は寛政年間、ところは江戸・神田鎌倉河岸界隈。呉服屋松坂屋の手代政次、金座裏の御用聞き9代目・宗五郎親分の手先亮吉、船宿の船頭彦四郎らはむじな長屋で生まれ育った幼馴染であり、同じく幼馴染で酒問屋豊島屋の看板娘しほに想いを寄せる者同士でもある。職業も性格も違う3人だが、お互い張り合うことがありながらも、仲の良い若者たちである。( ウィキペディア : 参照 )

佐伯泰英作品では唯一町人を主人公にした作品ではないかと思われます。

江戸は鎌倉河岸で育った若者四人をメインに据えた捕物帳です。

大体一巻当たり四章仕立てで、各章で夫々事件を解決しながらその巻を通した事件が描かれることが多いようです。

青春グラフティでしょうか。

2017年5月現在で、累計600万部を超える一大ベストセラーになっていますし、2010年4月からはNHK総合テレビで土曜時代劇として放映されました。

しかし、個人的にはこの作者のシリーズの中では面白い方ではないと感じます。四人の若者の生きざまに焦点を当てているようで、一方では捕物帳として謎解きの物語を描くという試みは決して成功しているとは感じませんでした。

勿論、佐伯泰英という作家の物語としてはそれなりの面白さを持っているとは思うのですが、それ以上のものではありませんでした。

そういうことで、2013年4月発売の『よっ、十一代目!』を同年7月に最後に読んで以降、このシリーズには手をつけていませんでした。

しかし、残念なことに2018年4月13日発売の第32巻『流れの勘蔵』をもってこのシリーズも完結したようです。これを機に、未読の23巻『うぶすな参り』以降の作品も読んでみようかという気にはなっています。

密命シリーズ

剣豪小説です。尾張徳川家との主人公の親子2代にわたる闘争が描かれます。

一方で、家族を取り巻く市井の人々との交流が過酷な戦いの息抜きとして人情豊かに描かれており、これまた人気シリーズでベストセラーです。

作品としてはもう完結しています。全26巻ありますが最後までまとめて読みたい人にはもってこいです。

密命シリーズ(2011年12月 完結)

  1. 密命 見参!寒月霞斬り
  2. 密命 弦月三十二人斬り
  3. 密命 残月無想斬り
  4. 刺客 密命・斬月剣
  5. 火頭 密命・紅蓮剣
  6. 兇刃 密命・一期一殺
  7. 初陣 密命・霜夜炎返し
  8. 悲恋 密命・尾張柳生剣
  9. 極意 密命・御庭番斬殺
  1. 遺恨 密命・影ノ剣
  2. 残夢 密命・熊野秘法剣
  3. 乱雲 密命・傀儡剣合わせ鏡
  4. 追善 密命・死の舞
  5. 遠謀 密命・血の絆
  6. 無刀 密命・父子鷹
  7. 烏鷺 密命・飛鳥山黒白
  8. 初心 密命・闇参籠
  9. 遺髪 密命・加賀の変
  1. 意地 密命・具足武者の怪
  2. 宣告 密命・雪中行
  3. 相剋 密命・陸奥巴波
  4. 再生 密命・恐山地吹雪
  5. 仇敵 密命・決戦前夜
  6. 切羽 密命・潰し合い中山道
  7. 覇者 密命・上覧剣術大試合
  8. 晩節 密命・終の一刀

吉原裏同心シリーズ

吉原裏同心シリーズ』とは

 

本書『吉原裏同心シリーズ』は、江戸は新吉原を舞台に、吉原で起きる不始末を表に出さずに処理する裏同心を描く痛快時代小説です。

人妻と手に手を取り故郷を出奔した神守幹次郎が、示現流の遣い手として吉原の危機を防ぐ姿は、痛快時代小説の醍醐味を満喫させてくれるでしょう。

 

吉原裏同心シリーズ』の作品

 

2021年10月発刊の『吉原裏同心 36 陰の人』から、シリーズ名が再び『吉原裏同心シリーズ』としてこれまでの全巻を通して巻数が振られることになりました。
しかし、ここでは今しばらくはこのままの表記で通し、しばらく経って通し番号で違和感のない頃に修正しようと思います。

 

吉原裏同心シリーズ(完結)

  1. 流離
  2. 足抜
  3. 見番
  4. 清掻
  5. 初花
  6. 遣手
  7. 枕絵
  1. 炎上
  2. 仮宅
  3. 沽券
  4. 異館
  5. 再建
  6. 布石
  7. 決着
  1. 愛憎
  2. 仇討
  3. 夜桜
  4. 無宿
  5. 未決
  6. 髪結
  7. 遺文
  1. 夢幻
  2. 狐舞
  3. 始末
  4. 流鶯

新・吉原裏同心抄シリーズ(2024年02月27日現在)

  1. まよい道
  2. 赤い雨
  3. 乱癒えず
  1. 祇園会
  2. 陰の人
  3. 独り立ち
  1. 一人二役
  2. 晩節遍路
  3. 蘇れ、吉原

 

吉原裏同心シリーズ』について

 

理不尽な結婚に苦しんでいた人妻の汀女を連れて、故郷の豊後岡藩を出奔した幹次郎は、女仇討の追手に追われ、十年の流浪の旅の末、江戸・吉原に流れ着く。
廓を統括する吉原会所の四郎兵衛に剣の腕を見込まれ、幹次郎は廓で起こるトラブルを解決する「吉原裏同心」となる――。( 佐伯泰英 特設ページ | 光文社文庫 | 光文社 : 参照 )

 

舞台が吉原であるところがまず独特なのですが、痛快時代小説としてのつぼはちゃんと抑えてあります。

また、この神守幹次郎という主人公は薩摩示現流の達人で当然無敵です。

更には駆け落ちしてきた汀女という美人の妻はいますが、舞台が吉原ですから勿論花魁が出てきてこの主人公にからみます。

特に人気絶頂の花魁薄墨太夫は、後に落籍されて加門麻という本名で本編に加わり、幹次郎と汀女の人生に深くかかわることになります。

その他にも、吉原会所七代目頭取の四郎兵衛や会所の番方の仙右衛門、後に登場することになる嶋村澄乃、南町奉行所定廻り同心の桑原市松などの脇を固める登場人物もまた個性的です。

これらの登場人物による立ち回りと美女とユーモアと、定番ですが面白いです

 

当初の『吉原裏同心シリーズ』では、敵役は幕府の中核の大物で、主人公は吉原の用心棒として自分たちの生活、引いては吉原を守るためにこの巨大な敵に立ち向かうことになります。

この流れも、2017年3月からの『吉原裏同心抄』というシリーズになると、幹次郎の私的な生活にも変化があり、吉原に個別に襲い掛かる様々な障害を取り除く作業へと変化しています。

そして、2019年9月になると『新・吉原裏同心抄シリーズ』へと変化し、舞台が幹次郎のいる京、そして江戸の吉原と二つに分かれることになります。

 

2014年6月からNHK総合テレビの木曜時代劇で枠で、小出恵介と貫地谷しほりという役者さんでドラマ化されました。2020年08月現在ではまだDVD化されていません。

 

追記 :

冒頭に書いたように、2021年10月に発刊された『吉原裏同心 36 陰の人』から、シリーズ名が再び『吉原裏同心シリーズ』としてこれまでの全巻を通して巻数が振られることになりました。

「吉原裏同心抄」「新・吉原裏同心抄」と名前を変えたシリーズ名が、再び『吉原裏同心シリーズ』として統一されることになったものです。

また、2022年4月12日から第一巻から毎月二冊ずつ、紙と電子版とが同時に「決定版」として刊行されるそうです。

詳しくは下記サイトを参照してください。

それに応じて、上記作品紹介の欄も訂正すべきですが、いましばらくそのままにしておきます。