吉原会所に突然、「裏同心」を希望する女性が現れた。十八歳と若い「女裏同心」に戸惑う吉原裏同心の神守幹次郎と会所の面々。一方、札差の伊勢亀半右衛門が重篤な病に罹り、幹次郎は遺言を託される。遺言には、薄墨太夫にかかわる衝撃の内容が書かれていた―。薄墨太夫、幹次郎、汀女にとって大きな転機となる内容とは何か。シリーズ最大の山場が待つ第二十五弾! (「BOOK」データベースより)
吉原裏同心シリーズの第二十四弾です。
吉原の「裏同心」になりたいと一人の娘が吉原会所に現れます。名を嶋村澄乃といい十八歳になるその娘は、父親の嶋村兵右衛門が亡きあと、父親と付き合いのあった吉原会所七代目頭取である四郎兵衛を頼って現れたのでした。
とりあえずは見習いとして幹次郎の仕事ぶりを学ぶ澄乃ですが、吉原のことを何も知らない澄乃にとって、吉原の日々は驚くことばかりです。
一方、薄墨太夫の贔屓筋である札差の伊勢亀半右衛門が重い病にかかり、幹次郎は薄墨太夫のこれからにかかわる重要な事柄が記された遺言を託されるのでした。
本書は、このところマンネリ感があり、新シリーズへの移行を心待ちにしていたのですが、本巻を持ってこのシリーズの一応の決着を見ることになりました。
だからなのか、本書は久しぶりにインパクトのある物語でした。と言っても、幹次郎の見せる剣戟の場面が多いなどの痛快場面が盛りだくさんというわけではなく、幹次郎の活躍の場面という点では逆に少ないとさえ言えます。
それよりも、新しい裏同心の登場や、薄墨の身分に大きな変化があるなどのストーリー上の新展開がこれまでとは異なる心地よさをもたらしてくれたと思われます。
幹次郎は、札差筆頭行司という高い地位にある伊勢亀半右衛門の最後に立ち合うことになり、その後は半右衛門の息子である千太郎とも知己を得ることになります。こうして江戸の大商人とも繋がりを得、薄墨太夫の今後の生き方にも大きく関わってくるのですが、こうした流れは吉原を舞台にした人情話にも似た雰囲気を醸し出しています。
新裏同心が若干十八歳の澄乃という娘であることから、今後の澄乃の成長が描かれるであろうし、澄乃の活躍も期待していいのでしょう。また、薄墨太夫の運命も大きく変動していくことは、今後のこのシリーズの性格も変わってくることと思われます。
次巻からは、新シリーズとしての新展開を期待したいものです。