佐伯 泰英

吉原裏同心シリーズ

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本書『祇園会: 新・吉原裏同心抄(四)』は、文庫本で340頁の『新・吉原裏同心抄シリーズ』第四弾の長編痛快時代小説です。

祇園御霊会の無事の終わりを願う幹次郎らと、存亡の危機に建つ江戸吉原の面々の様子が描かれる、意外性のある一篇でした。

 

祇園会: 新・吉原裏同心抄(四)』の簡単なあらすじ

 

江戸・吉原で、評判の遣り手らが不可解な辞職をし、相次いで姿を消した。異変の臭いを嗅いだ四郎兵衛ら会所の面々は、その企みの背後を探ろうとする。一方の京では、ひと月続く華やかな祭礼、祇園会が始まった。祇園囃子の響く中、幹次郎は、新たな刺客からの脅迫と攻撃に直面する。大切な町を守るため、総力戦ともいえる戦いが幕を開ける。慟哭必至のラスト!(「内容紹介」より)

 

江戸吉原では、半籬「芳野楼」の遣り手のお紗世が他の楼の三人の遣り手を誘い楼を辞めていたが、そのうちの一人の遣り手・鶴女が水死体となって見つかった。

また、身代わりの佐吉は牢の中で今吉原で起きている事件についての話を聞き込んできたが、その話を持ち掛けてきた男も鶴女と同じような殺され方で見つかっていた。

そうした中、吉原会所七代目頭取の四郎兵衛は紗世が残していった文箱を手に入れていた。

一方、祇園御霊会が始まっていた京では、真新しい祭礼衣装に身を包んだ幹次郎が、六種のご神宝、三基の神輿、そして別格のご神宝である「勅板」を守ることを誓っていた。

その幹次郎の前には、幹次郎が倒した不善院三十三坊の弟と名乗る不善院七十七坊という男が立ちふさがっていた。

 

祇園会: 新・吉原裏同心抄(四)』の感想

 

本書『祇園会: 新・吉原裏同心抄(四)』では、京の祇園御霊会を背景として、この祭りの由来、祭事の様子を詳しく記しながら、神守幹次郎の活躍が描かれます。

同時に、江戸吉原での急激な展開も記され、本書では特に澄乃や、その手助けをする同心の桑原市松身代わりの佐吉の活躍が光ります。

というよりも、物語の進展という意味では京の幹次郎の姿よりも江戸吉原での四郎兵衛や澄乃の動向の方がメインだというべきかもしれません。

とくに、吉原の妓楼の買取を企んでいた佐渡の山師荒海屋金左衛門の背後にさらに上様御側御用取次という重職にある朝比奈義稙なる人物の存在が見えてきたことなど、新たな勢力の存在が明確になってきています。

こうした展開が、本『吉原裏同心シリーズ』の新たな魅力につながっていくことを期待したいものです。

 

祇園会」は今でいう「京都祇園祭」のことを言います。京都市東山区の八坂神社(祇園社)の祭礼であり、明治年間になってそれまでの祇園御霊会と呼ばれていた祭りです。

 

先に述べたように、本書での京での幹次郎の話は祇園会の紹介が主になっているというほかありません。

ですから、本書の物語としての面白さ自体は幹次郎よりも江戸吉原での事態の展開にあると言えます。

何よりも、本書では思いもかけない展開が待っていました。

本『吉原裏同心シリーズ』は、若干のマンネリの気配が見えてきたころ、幹次郎と麻をを京へと修行に出し、シリーズの色をかなり変えることに成功したと思っていたのですが、今回はそれをさらに上回る変化でした。

ということは、今後の展開に期待するところが大きくなるということです。

続巻を期待して待ちたいと思います。

[投稿日]2021年07月11日  [最終更新日]2021年7月11日
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江戸・吉原で、評判の遣り手らが不可解な辞職をし、相次いで姿を消した。異変の臭いを嗅いだ四郎兵衛ら会所の面々は、その企みの背後を探ろうとする。
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