吉原裏同心の神守幹次郎に、かつて出奔した豊後岡藩から復藩の話が舞い込む。突然の話に訝る幹次郎だったが、そんな折り、吉原に出店を持つ呉服屋の主が殺された。探索を続けるや、名門旗本の存在がちらつき、背後には吉原乗っ取りを狙う新たな企てが浮かび上げる。難問山積の幹次郎はかつてない大捕物に豪剣で立ち向かう―。超人気シリーズ、待望の第二十三弾。(「BOOK」データベースより)
吉原裏同心シリーズの第二十三弾です。
日本橋の呉服商である島原屋の出店が吉原にあり、そこの番頭である繁蔵の娘お縫が襲われるという事件が起きます。調べると、繁蔵は病に冒されていて、店もやめさせられようとしていました。島原屋はあるじの喜佐衛門が賭け事にはまり、使用人の給金にも手をつけているらしいのですが、ある日殺されてしまいます。幹次郎は、南町奉行所定廻り同心桑平市松とも相談し、繁蔵親子を助けようとするのでした。
本書の時代背景として、松平定信の施策として知られる寛政の改革による緊縮財政策があり、そのあおりで生じた不景気の波をもろにかぶっている吉原があります。
火の消えたようになっている吉原を舞台に、全くの捕物帳であった前巻とは異なり、本書では、吉原乗っ取りに絡む新たな事件の解決に走り回る幹次郎、そして吉原会所の番方仙右衛門の姿が描かれています。
また、幹次郎自身の豊後岡藩への復帰の話もあり、吉原会所七代目頭取の四郎兵衛の娘である玉藻に男の影が感じられたりと、話題には事欠きません。
このように、吉原裏同心としての吉原内部での事件の解決、という役務も当然のことですが、幹次郎の個人的な事柄に関しても、復藩の誘いがあったり、花魁の薄墨との関係にも若干の変化が見えたりと、新たな展開を感じさせるものになっています。
勿論、当たり前のことではありますが幹次郎の剣戟の場面もちゃんと用意してあり、読み応えのある物語として仕上がっています。
本シリーズも余すところあと二巻で終わり、新たなシリーズへと移っていくことになっています。その新たなシリーズにも薄墨が登場するようで、どのような展開になるものなのか今から期待が増してきています。