『陰の人 吉原裏同心 36』とは
本書『陰の人 吉原裏同心 36』は、作者本人のあとがきまで入れて文庫本で347頁の、『吉原裏同心シリーズ』第三十六弾となる長編痛快時代小説です。
これまでにない危機が迫った吉原に神守幹次郎はどのように動くのか、若干の期待外れの感はあったものの、今後の展開に期待が高まる一冊でした。
『陰の人 吉原裏同心 36』の簡単なあらすじ
吉原を過去最大の危機が襲う。会所頭取、四郎兵衛の無残な姿。すべてを乗っ取らんと着々と勢力を固める一味。その周倒な計略に、残された面々は苦境に耐えるばかり。一方、修業中の京から姿を消した神守幹次郎。最後の頼みの綱ともいえる彼は一体どこにいるのか?そして、吉原は生き残れるのか…!?いま「吉原裏同心」は新たなる時代へと踏み出す!(「BOOK」データベースより)
吉原会所頭取の四郎兵衛が殺されてしまった前巻『祇園会』のあと、残された三浦屋の四郎左衛門が吉原会所の仮の頭取を務めていた。
しかし、七代目頭取の四郎兵衛ほどの人脈も経験もない四郎左衛門は、吉原の今後について何も手を打てないでいた。
そうした中、江戸の南町奉行所定廻り同心の桑原市松や身代わりの佐吉からの文を受けてすぐに京都祇園から姿を消した神守幹次郎は姿を見せずにいた。
そのことは幹次郎の妻の汀女をはじめ吉原会所の番方である仙右衛門や吉原の女裏同心の嶋村澄乃にしても同様であり、依然その行方が分からずにいたのだった。
『陰の人 吉原裏同心 36』の感想
本書『陰の人 吉原裏同心 36』は、大きな転換期を迎えた吉原の危機に際し、神守幹次郎がいかなるように動き、どのようにして吉原の危機を救うのか、に焦点が当てられます。
同時に、シリーズの構成として大きな変化をもたらしている巻でもあります。
それは、この巻の最後に作者の「あとがき」で述べられているのですが、これまで吉原裏同心の神守幹次郎を主人公とするこのシリーズは「吉原裏同心」「吉原裏同心抄」「新・吉原裏同心抄」と名前を変えて続いてきました。
しかしそれをいったん解消し、すべての巻を通して『吉原裏同心シリーズ』として通し番号を振ることになるというものです。
このことは「吉原裏同心|佐伯泰英 特設サイト | 光文社」でも、本書名として『吉原裏同心 36 陰の人』と表記してあります。
そして同サイトにはまた、作者佐伯泰英本人の「読者へのメッセージ」として、文庫本の「あとがき」と同文も掲載してありますので、ここらの経緯はそのサイトを参照してください。
ともあれ、四郎兵衛という吉原の実力者を失うことになった吉原最大の危機は本書で一応の終結を見ます。
しかし、もう少し様々な出来事を経たうえで皆の力を合わせた末に吉原の本来の姿が戻ってくると思っていた私にとって、その処理の仕方は一読者としては決して納得のいくものではありませんでした。
そのことの大きな理由の一つとして、本書『陰の人 吉原裏同心 36』のクライマックスの処理がいまひとつ納得のいかないものではあったことも挙げられます。
しかしながら、シリーズとしては『居眠り磐音シリーズ』や『酔いどれ小籐次シリーズ』などと並ぶ人気シリーズと育っている本『吉原裏同心シリーズ』シリーズです。
多分、第八代目の吉原会所頭取に就くであろう神守幹次郎の新たな活躍を期待したいものです。
続巻を楽しみに待ちたいと思います。