夏川 草介

神様のカルテシリーズ

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本書『神様のカルテ2』は、『神様のカルテシリーズ』の第二弾で、文庫本で373頁の長編小説です。

作品の面白さはあらためて言うまでもなく、解説を我が熊本出身の作家田中芳樹氏が書いておられるのもまた魅力です。

 

『神様のカルテ2』の簡単なあらすじ 

 

栗原一止は、夏目漱石を敬愛する信州の内科医だ。「二十四時間、三百六十五日対応」を掲げる本庄病院で連日連夜不眠不休の診療を続けている。四月、東京の大病院から新任の医師・進藤辰也がやってくる。一止と信濃大学の同級生だった進藤は、かつて“医学部の良心”と呼ばれたほどの男である。だが着任後の進藤に、病棟内で信じがたい悪評が立つ。失意する一止をさらなる試練が襲う。副部長先生の突然の発病―この病院で、再び奇蹟は起きるのか。(「BOOK」データベースより)

 

プロローグ
第一話 紅梅記
一止が勤める新庄病院に、学生時代からの友人である進藤辰也が移ってきた。

一止の片想いの相手であった如月千夏を射止めた進藤は、かつては「医学部の良心」と呼ばれていた男だった。しかし、その進藤は、緊急の呼び出しにも応ぜず、患者へのインフォームドコンセントを後回しに帰ってしまう男になっていた。

第二話 桜の咲く町で
辰也でなければ対応しきれない難しい患者がいるらしく、病棟で時間外に働く辰也の姿を見かけるようになった。

留川トヨさんの部屋から旦那さんの歌う木曾節が聞こえてくる中、一止は次郎から辰也の妻の千夏がおかしくなったという話を聞いた。そんなとき、辰也の母親のセツが辰也の娘の夏菜を連れて新城病院にやって来た。

第三話 花桃の季節
古狐先生こと内藤副部長先生が倒れ、入院することとなった。一止は古狐先生のCT写真を見た大狸先生から二人の古い約束について聞くのだった。

検査の結果は悪性のリンパ腫であり、治療の開始を数日待ってくれと頼む古狐先生に、辰也は、「先生は、医師である前に人間です。」と言い放つのだった。

第四話 花水木
内藤先生はあとひと月も持たないという話に、ハルがある意外な提案をしてきた。

辰也や外村看護師松前技師長東西看護師などの了承を取り付け、一止は二日後の真夜中、内藤先生と先生の奥さまを本庄病院のヘリポートへと連れだす。

翌日、栗原、砂山、進藤の三医師は本庄病院院長の本庄忠一、そして本庄病院ナンバー2の金山弁次事務長の前に立たされていた。

エピローグ

 

『神様のカルテ2』の感想

 

前巻の『神様のカルテ』で、現在の地域医療制度に対する様々な点への問題提起も含みつつ、個々の患者と医者などの人間ドラマを描き出しているのが本『神様のカルテシリーズ』、だと書きましたが、本書『神様のカルテ2』も全く同様です。

 

 

本書『神様のカルテ2』では、その他に医師と家族の関係とがテーマになっているようです。

本書の前巻との差異は、一止の学生時代からの友人である進藤辰也という血液内科の医師が新たに登場してきていることでしょう。

この進藤辰也は、学生時代は「医学部の良心」と呼ばれたほどの男であったのですが、本庄病院にやってきた辰也は、時間外に連絡が取れずに看護師が困っているという話が聞こえて来るような人物になっていました。

こうした辰也の行いの陰には、家族の問題があり、そんな辰也に対し、一止は意表をつく行動をとります。

そして、さらにひと声を掛けるのですが、それが、あの頃のことを「私は一度も忘れたことはない。無論お前との友情も、だ。」というものでした。

 

本『神様のカルテシリーズ』ではこうした青臭いフレーズがよく出てきます。また、登場人物の言葉だけではなく行いも、ほかであれば単なる書生論であり、世間知らず、としか言われないような言動であることが多いのです。

しかしながら、本シリーズで一止の口からこうした言葉が出てくると、それは自然であり、物語の流れの中で違和感がありません。

そんな作品を作り上げた作者の力量、文章の力にただ脱帽するばかりです。そうした作品だからこそ、読者の心の奥底に浸透し、皆の支持を得ているのだと思います。

加えていうならば、辰也の座右の銘として紹介されている、セオドア・ソレンソンの「良心に恥じぬということだけが、我々の確かな報酬である」という言葉がまた心に響きます。

さらに述べれば、辰也と一止との仲が昔を取り戻したとき、辰也が一止に対し「帰ってきて正解だったよ。」「本庄病院に来れば、君に会えると思っていたんだ。」と言いますが、仲間に対する確固たる信頼の上に成立するこうした言葉に私は弱いのです。

 

進藤辰也の登場が一つの山とすれば、本書『神様のカルテ2』にはもう一つの山があります。それが古狐先生こと内藤先生の話です。

すなわち、辰也の場面とは異なり、こちらでは正面から本書の大きなテーマであり医者の抱える難問として挙げられている「患者と家族の問題」が描かれています。

一止がそうであるように、二十四時間体制の本庄病院では常に人で不足であり、医者は長い時間病院にいることになります。そしてそのことは、医者は家族のそばにいない、ということを意味します。

そうした事実を背景に、内藤先生が病に倒れて初めてこの夫婦がゆっくりとできるという現実が浮かび上がってくるのです。

 

本書『神様のカルテ2』の最後に、一止らは内藤先生のためにあることを企て、その描写がまた見事なのですが、この場面はそのあとの糾問の場面と合わせて一つでしょう。

一止らの企てに対し追及する事務長に対し、「医者の話をしているのではない。人間の話をしているのだ。」と言い切る一止の言葉は胸を打ち、涙を誘います。

こうした理想論を押し立てていかなければ、この救い難い環境の中で誰が正気を保って働き続けられるのか、という慟哭にも近い言葉は、2021年の現在、コロナ禍の下で命を賭して働いている医療従事者の姿とも重なるのです。

 

本書『神様のカルテ2』での、御嶽山を前にする冬山に登った二人、そして御嶽山そのものに上った二人を描くプロローグとエピローグが素晴らしいものでした。

一止とハルとの素晴らしい関係を正面から描いてあり、読者はこの場面だけで二人の関係性、立場を一気に理解できます。

本『神様のカルテシリーズ』で、一止の細君のハルの姿、たまに聞かせるハルの言葉が、どれだけこの物語に救いを与えているでしょうか。

このハルに限らず、夏川草介という作家の文章は自然を対象とした比喩表現が見事であり、ときおり挟まれる警句が、琴線を刺激します。

 

本『神様のカルテシリーズ』をあらためて見つめ直すと、非常に青臭く、いわゆる書生論に満ちた作品だと言えます。

登場人物として、私たちの通常の生活で出会う言葉の通じない人や悪人などは全く登場しない善人だけの物語です。

近時読んだ深町秋生の『ヘルドッグス 地獄の犬たち』などは逆に暴力だらけで、悪人しか登場しない物語の対極にある物語でした。一方は死へ誘う話であり、本書は死から救い出す物語です。

アクション満載のこの物語は、バイオレンス満載であり、エンターテイメント小説として強烈な魅力を放っています。

 

 

ところが、青臭いはずの物語であるこの『神様のカルテシリーズ』が読み手の心をうちます。

こんな医者が、こんな看護師が、こんな病院があるはずがないとは思いつつも、この物語を読んで涙するのです。

エロスもバイオレンスもない、感傷しかないはずの物語に心を揺さぶられるのですから、それは救いなのかもしれません。

このシリーズがいつまでも続いてほしいと切に願います。

[投稿日]2021年02月07日  [最終更新日]2021年2月7日
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