梶尾 真治

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文庫

新潮社


本書『彼女は弊社の泥酔ヒロイン :三友商事怪魔企画室』は、コミカルと言い切っていいのか不明なヒーローものの長編SF小説です。

文庫本で261頁というあまり長くない作品ですが、私の好みからは少し外れた作品でした。

 

三友商事の新入社員、中田栄子は、酒を飲むと超人的な能力を発揮する特異体質の持ち主。だが飲酒により異界から「怪魔」と呼ばれる化け物をも呼び寄せる、というジレンマがあった。その力に注目した従姉の美宇と上司の友田は、戸惑う栄子を「Aクライ・プリンセス」というスーパーヒロインに仕立て、会員制護衛ビジネスを立ち上げる―。新人OLの成長を見守るSF的お仕事小説!(「BOOK」データベースより)

 

SF小説とは書きましたが、むしろファンタジー小説といった方がよさそうなほどに科学的な根拠は全く無視した作品です。

そして、シリアスな物語とは到底言えず、しかしコミカルと言い切っていいのかは疑問で、おふざけ作品と言い切る人もいそうな、何とも形容しがたい作品でした。

主人公は中田栄子という女性で、娘とともに住む祖父の家に居候することになります。その家には従姉の美宇という娘がいて、この娘が何かと栄子の面倒を見ることになります

そして何より栄子には、酒を飲むと魔物を呼び寄せてしまい、自分はその魔物を退治するべきス―パーウーマンへと変身するという大きな秘密があったのです。

三友商事の新入社員であった栄子は、社長の息子でもある上司の友田の下で、美宇の助けを借りながら、スーパーヒロインとして会員制の護衛組織を立ち上げることになるのでした。

 

もともと、梶尾真治という作者は時間旅行ものを得意とし、更にはシリアスというよりはロマンチックな語りを得意としている作家さんだと思ってきました。

もちろん、日本SF対象を受賞した『サラマンダー殲滅』や『黄泉がえり』のようなシリアスな作品も書かれないわけでありません。

 

 

しかし、梶尾真治作品の中では本書『彼女は弊社の泥酔ヒロイン』のように「ゆるい」物語は初めて読んだような気がします。少なくともすぐに思い出せる物語はありません。

スーパーヒロインものだからというわけではありません。そのヒロインが飲酒をきっかけに変身するからというわけでもなく、物語自体の設定自体が全て「ゆるい」のです。

主人公がスーパーヒロインになる理由が曖昧なのはまあいいでしょう。

しかし、主人公の就職先での配属先が新設部署であったり、そもそも上司が二代目であり自由度が高くスーパーヒロインになる主人公を利用した事業を起こそうと考えることなど、どうにも安易です。

もちろん、その前に主人公の祖父の家である下宿先にいた従姉がスーパーヒロインオタクであり、コスチュームまで作っていたことなどまさにそうです。

そして、そうした「ゆるい」設定だから物語がドタバタコメディになっているというわけでもなく、主人公は彼女なりに深刻に悩んでいたりもします。

 

ところが、さすがに梶尾真治作品だと思い知らされます。

それは、すべてが「ゆるい」中で進行する物語の中で、主人公がスーパーヒロインに変身すること自体が化け物を呼び寄せるというユニークな設定になっていることです。

それゆえに主人公は自分がスーパーヒロインになるべき理由への疑問に加え、そもそも怪物を呼び寄せてしまう、というの自分の存在理由への根本的な謎を持つのです。

こうした点で、作者お得意の時間旅行をテーマにした物語においても、いろいろなアイデアで異なる状況下での時間旅行の物語を紡ぎだしてきた作者の力量が示されます。

そうした、妙にゆるゆるの設定の中で悩みながら、母親や祖父、そして従姉たちの力を借りつつ、「怪魔」と呼ばれる化け物を退治していく主人公が描かれるのです。

 

ただ、さすがに梶尾真治の物語としての魅力は持っているものの、個人的な好みはまた別であり、やはりすべてを肯定し面白い、とまでは思えない作品でした。

[投稿日]2020年11月20日  [最終更新日]2020年11月20日
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