藤井 太洋

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2020年、流れ星の発生を予測するWebサイト“メテオ・ニュース”を運営する木村和海は、イランが打ち上げたロケットブースターの2段目“サフィール3”が、大気圏内に落下することなく、逆に高度を上げていることに気づく。シェアオフィス仲間である天才的ITエンジニア沼田明利の協力を得て、“サフィール3”のデータを解析する和海は、世界を揺るがすスペーステロ計画に巻き込まれて―第35回日本SF大賞、第46回星雲賞日本長編部門、ベストSF2014国内篇第1位。( 上巻 :「BOOK」データベースより )

“サフィール3”の異常な機動から、国際宇宙ステーションを狙う軌道兵器であるという噂が広まりつつあった。北米航空宇宙防衛司令部のダレル・フリーマン軍曹は事態の調査を開始、いっぽう著名な起業家ロニー・スマークは、民間宇宙ツアーPRのため娘とともに軌道ホテルに滞在しようとしていた。調査を続ける木村和海は、すべての原因が新型の宇宙機“スペース・テザー”にあるという情報をイランの科学者より得る―( 下巻 :「BOOK」データベースより )

 

現代のインターネット社会のテクノロジーを駆使した長編のSF小説です。

 

これまでに打ち上げられた人工衛星などの老朽化や故障・破壊などによる不要物がゴミとなって衛星軌道上を漂っていて、国際宇宙ステーションに衝突したりする危険性が現実にあるそうです。

本書のテーマにもなっている宇宙ゴミ(スペースデブリ)が宇宙開発に及ぼす影響については様々な個所で目にする機会があります。

こうした実情に目を向け、テロリストが宇宙ゴミを利用したテロを仕掛ける、というのが本書の骨子です。

 

そもそも本書のタイトル「オービタル・クラウド」の意味が、ざっと辞書どおりに訳すと「軌道の雲」になります。

そこに利用される技術が「導電性テザー」であり、「宇宙空間に長い紐を伸ばすことで軌道の変更や姿勢制御を行う」技術なのだそうです。(ここらを知りたい方は「ウィキペディア」を見てください。)

これらに、スマートホンの基盤を利用するなどのアイディを加味し、いかにものSF小説に仕上げてあります。

 

主人公は、フリーランスの若者たちが集うシェアオフィスで、天才的なプログラマーである沼田明利らとともに活動している木村和海という青年です。

ほかにテロリストの仕掛けた宇宙での罠を見破る和海とその仲間がいて、そして彼らを助けるJAXAの職員がいます。

更に米軍やCIAのインテリジェンスのプロが彼らを助ける役割に回り、宇宙で展開されるスペース戦争の回避を目指します。

 

著者本人が「スリラーとして、広い読者を想定して書いた作品」と言っているように、冒険小説的な側面も多分にあります。

ただ、逆に言うとそこらが少々安易に過ぎる印象もあり、違和感を感じる点でもあるのですが。

ただ、その違和感もあえてあげつらうほどのものでもなく、普通に面白い小説として読み進めることができます。

現地に行かずにネット情報をメインに描いたというのですが、技術に関しては勿論のこと、舞台背景の描写のリアリティー十分に描いてあります。

[投稿日]2016年01月19日  [最終更新日]2020年3月27日
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