実刑判決を受けた浅見克則は「懲役刑」と「消失刑」のどちらかを選べ、と言われる。消失刑だったら、ある程度の自由が与えられ、刑期をどのように過ごしてもかまわないらしい。いったい、どんな刑罰なのか?究極の孤独。僕は、いないも同然だった。それでも、彼女を救いたかった。(「BOOK」データベースより)
「究極の孤独」を強いられる「消失刑」を選択した主人公を描く、長編のファンタジー小説です。
いかにも梶尾真治らしいファンタジーロマン小説です。
とにかく、受刑者は、普通生活を営むことはできるのだけれども、誰からもその存在を認識してもらえないという刑罰の「消失刑」というアイディアが素晴らしいのでです。
他者を見ることはできるのだけれども、自分の存在は認識してもらえないということは、当然会話はできません。
単純に、普通の暮らしができるのならば懲役刑よりも当然「消失刑」の方がいいと思えそうでもあります。
しかしながら、誰も自分の存在を認識できず、いないものとして扱われるという状況はどのようなものか、会話のできないつらさや、怪我をしたとしても誰も気づいてくれない怖さなどを作者はすこしずつ示していきます。
意外な出来事の末に、何とかして他者との意思疎通を図ろうとする主人公の努力を、次第に応援している自分が居ました。
この作者はまずはそうした限定された状況を創り出すことがうまい作家さんだと思います。
例えば、私が好きな作品である『クロノス・ジョウンターの伝説』は、過去に戻ればその反発で戻った過去の分以上の未来へ飛ばされてしまうという状況下での主人公の行動が描かれていて、自己犠牲という感動をもたらしてくれます。
更に、その限定された状況を乗り越える主人公の姿をまたロマン風味豊かに描きだす上手さがあり、本書はまさにそうした典型の作品といえます。
ちなみに、本書は2019年5月現在、Amazonでも楽天でも注文はできないようです。個人的には好きな本なので残念です。