地球に生命が誕生して以来の記憶を受け継がせるため、エマノンは必ず一人の娘を生んできた。しかし、あるとき男女の双生児が生まれて…。「かりそめエマノン」小学四年生の夏休みを曾祖母の住む九州で過ごすことになったぼく。アポロ11号が月に着陸した日、長い髪と印象的な瞳をもつ美少女エマノンに出会った。それは忘れられない記憶の始まりとなった。(「BOOK」データベースより)
エマノンシリーズの三作目です。中編の「かりそめエマノン」「まろうどエマノン」という二編が収められた作品集です。
「かりそめエマノン」は、養護施設の愛童園で育てられ、江口夫妻の養子になったという過去を持つ荏口拓麻という少年を中心として話は進みます。このシリーズの主人公であるエマノンは、一人の娘を産み、その記憶を引き継ぐことで太古からの記憶を受け継ぐのですが、昭和二十年前半に生まれた男女の双子の片割れが拓麻だったのです。
その拓麻は自分には女の兄弟がいたと言う記憶を持っていました。また自分に不思議な力があることにも気づいており、そのためか常に自分の存在意義を探し求めていたのですが、物語の最後にその理由を探し当てます。
残念ながら、安っぽいC級のSF映画のような印象でした。梶尾真治という作家の力からすると、こんなものではなく、同じ設定でももう少しきちんと練り上げられた物語を紡ぎだすことができたと思うばかりです。
このシリーズにはときおり十分考えられていないという印象を受ける作品があるのですが、本作品もその中の一遍でした。
「まろうどエマノン」は、廣瀬直樹という小学四年生の、九州の中ほどにある父親の田舎で過ごしたひと夏の物語です。十歳になった直樹は、長い黒髪をしたエマノンと名乗る女性と出会います。エマノンの頼みに応じ、罠にかかった「ましら」を助けることになった直樹は、ちょっとした冒険に乗り出すことになるのです。
この物語も、梶尾真治の他の作品で読んだことがあるような物語でした。私の郷里熊本を思わせるとある田舎町での、十歳の少年のひと夏の出来事が描かれますが、主人公が私と似た年齢でもあり、郷愁を感じさせる物語ではあるのですが、やはり、この作者の物語にしては何となく物足りない、と言う印象を抱いてしまう作品でした。
両作品共に面白くないとまでは言いませんが、梶尾真治と言う作者への期待の高さもあって、物足りなさばかりが目立つ結果でした。
でも、梶尾真治の物語としての雰囲気は十分持っているので、SF若しくはファンタジーとしての完成度をそれほど求めることもなく、カジシンワールドを楽しむことが第一義の読者にはそうした不満は無いかもしれません。