本書『タイムマシンでは、行けない明日』は、タイムトラベルもののSF仕立ての長編恋愛小説です。
丁寧に張られた伏線の回収の仕方など、なかなかに読みごたえのあるSF小説でした。
ロケットの発射台がある、南の島。高校1年生の丹羽光二には、長谷川葵という気になる同級生がいた。彼女は初デートの日、「ロケット飛ばして、金星まで会いにきて!」という言葉を最後に、光二の前から永遠に姿を消した、はずだったが―。もう一度、会いたい!恋した少女を救うため、タイムマシンに乗って、“あの日”を変えようと奔走する理系男子。世代を超えて胸を打つ、SF恋愛小説! (「BOOK」データベースより)
自動車事故のために帰らぬ人となってしまった、同級生の長谷川さんを助けようと、高校1年生の丹羽光二はタイムマシンの研究をするために仙台の大学へと進みます。つまりは、過去に戻って過去を改変し、長谷川さんが自動車事故に遭わないようにしようとするのですが、その大学で思いもかけず過去へと旅をすることになるのです。
本書『タイムマシンでは、行けない明日』では、というかこの作者は過去への手段を科学的に説明する努力は一切と言っていいほどにしていません。そこにタイムマシンがある、のです。
物語は過去へ遡った主人公のそれからの人生を描くことにあります。
だからこの物語はSFではないなどと言うつもりではなく、物語の重点が登場人物の人生を描くことにあり、そこでの時間旅行の絡ませ方が上手い、と思うだけです。
この物語はパラレルワールドの話になりますが、その描き方が上手いのですね。物語の序盤から潜ませてあった伏線が、物語が進むにつれて回収されていく様は心地よく、最終的な終わり方は読む者の胸を打ちます。
本書『タイムマシンでは、行けない明日』については、カバーイラストを漫才師キングコングの西野亮廣が担当していることも驚きでした。
この著者の作品で、本書の元になった短編も収められている『ふたつの星とタイムマシン』の装丁も同じく西野亮廣が担当しており、それが思いのほかに作品にマッチしていてつい関心してしまったものです。
文章も個性的です。短めの文章をたたみ掛け、そして文章の抒情性を排しながらも読み手の情感に訴えてきます。
俯瞰的な文章であり主観を排しているようでいて、適度な湿度を持ち、心地よいリズムで読み終えることができました。
時間旅行と言えば、まずは 梶尾真治作品でしょうか。中でも一番はっきりしているのは『クロノス・ジョウンターの伝説』だと思います。
他にも『つばき、時跳び』を始めとして多くのタイムトラベルものを書いておられますが、『クロノス・ジョウンターの伝説』はタイムトラベルの設定が秀逸です。
過去へ戻ることはできても、一定時間経過すると逆に未来へと飛ばされてしむという欠点があるのです。この設定のもと、いろいろな物語が紡ぎだされます。
そして外すことができないのは ハインラインの『夏への扉』でしょう。
仲間の裏切りに傷ついた主人公は冷凍睡眠技術で眠りにつきます。西暦2000年の未来で目覚めた主人公は、タイムマシンで過去に戻り、自分を裏切った恋人や仲間への復讐を果たそうとするのです。
古くからの日本のSFファンの間では一番人気の作品だといっても過言ではない名作です。
私が読んだのは福島正実氏が訳したものですが、近年小尾芙佐氏の新約版も出ているそうです。この新約版でも読んでみたいものです。
蛇足ながら、丁度先日タイムマシンもののマイナーな映画を見たなばかりでした。それも二本。
一つはイーサン・ホーク主演の『プリデスティネーション』で。もう一つは『プライマー』。そのちょっと前には『Looper』という映画もありましたね。
『プライマー』はサンダンス映画祭で審査員大賞をとった作品ですが、難解に過ぎて一回見ただけでは決して内容を理解できない映画でした。この作品を解説したサイトがあったので、やっとその意味を理解できたほどです。
『Looper』はブルース・ウィリス主演のアクション映画とも言える作品で、未来から送りこまれた人物を殺す殺し屋が、ある日送りこまれてきた自分を助けてしまう、という独特な話でした。
『プリデスティネーション』はハインラインの『輪廻の蛇』を原作とする作品ですが、映画の出来は私の中では中の上といったところでしょうか。タイムトラベラーを監視する時空警察の物語です。