辻堂 魁

夜叉萬同心シリーズ

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文庫

光文社

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北町奉行所の隠密廻り方同心、萬七蔵は、目的遂行のためには手段を選ばぬやり方から、「夜叉萬」と呼ばれ密かに恐れられていた。脂粉の香りを残し去ってゆく辻斬りの探索の過程で七蔵が見た卑劣な真実とは―。七蔵のふるう豪剣は、誰を斬り、何を裁くのか?悪道を歩む人間を見つめ、その因果や定めを鮮やかに描き出す、名手による時代小説、超絶の醍醐味ここにあり。(「BOOK」データベースより)

私が読んだのはベストセラーズ から出版されているベスト時代文庫(2008/2/20)版の『夜叉萬同心 冬蜉蝣』でした。ところが、その後、学研M文庫から『夜叉萬同心 冬かげろう』が出て、現在は光文社時代小説文庫から『夜叉萬同心 冬かげろう』として出版されています。

 


 
本書『夜叉萬同心 冬かげろう』は、『夜叉萬同心シリーズ』の第一弾の連作短編の痛快時代小説です。

最初読んだときは、三つの物語からなっていて、この作家の『風の市兵衛』シリーズの面白さからして、かなりの期待を持って読んだのですが、残念ながら期待に応えた作品ということはできませんでした、と書いています。

しかし、今回再度読み返して見ると、それほど捨てたものではないと思うようになりました。特に『日暮し同心始末帖シリーズ』を読み、少しだけですが萬七蔵が登場していたのに驚き、再度本書を読んだことから惣思ったのかもしれません。

つまりは、読んだ時の私の気持ち次第で、作品の面白さが変わったわけで、私の読書歴もあまり大したものではない、という証左かもしれません。以下はその時の文章をそのままに載せてあります。

 

北町奉行所隠密廻り同心である萬七蔵(よろずななぞう)は、一刀流の免許皆伝という腕前を買われ、奉行直属の隠密御用を命じられている「殺しのライセンス」を持つ同心です。

旗本の部屋住み連中の集まりである「紅組」の乱暴狼藉を懲らしめる典型的な勧善懲悪の物語の「桜花」、瑞龍軒清墨という絵師が暗黒亭黒主という号で描いていた春画を巡る事件の「かどわかし」、磐栄藩用人の斎藤弥兵衛という侍から’蜉蝣’と呼ばれている辻斬りを切るように頼まれる「冬蜉蝣(ふゆかげろう)」という三つの物語です。

振り仮名交じりの漢字を多用した文章で細かなところまで描写されている文章が目につくのですが、残念ながら物語の内容にまでは関心が移りません。普通の時代小説でしかない、と感じてしまいました。残念ながら、辻堂魁という作者の魅力が発揮された物語ではありませんでした。

というのも、本書は辻堂魁のデビュー作だったのです。魅力的な物語である『風の市兵衛シリーズ』は、本書の二年後に書かれていますので、少なくとも2014年6月の時点では第四作が出ている『風の市兵衛』シリーズは面白さが一段と増していることでしょう。

本書は痛快時代小説と言っていいのでしょう。
似たような設定の小説としては鳥羽亮の『剣客同心シリーズ』が思い浮かびます。正面から殺しの許可があるわけではないのですが、当初は見習い同心であった主人公の長月隼人も、第一作目の終わりには定町廻り同心となり、悪から恐れられる同心となっていきます。

ここまでが最初に書いた時の文章です。

 

しかし、再度読み返して見ると、諸々不満な点はあるにしても、重要な登場人物として鏡音三郎という侍がいるのに、そのことには何も触れていません。そもそも永生藩の藩内の争いにも深く絡んでいる人物で、なによりも町娘の綾との淡い恋心なども描かれ、彩りを添える重要な人物です。

ましてや、このあとのシリーズにも登場し、七蔵らを手助けもする役目もあり、触れないわけにはいきません。ただ、本書に登場した当初の印象は紅組になぶられているだけの男で頼りなかったのですが、そのうちに、それなりの剣を使い七蔵らを手助けするようにもなります。

たしかに本書以降、次第に辻堂魁という作家の作品の深みが増している様には思います。多くの作品を書くうちに文章も寝れてきたのではないでしょうか。

とにかく、痛快時代小説の書き手として注目すべき作家さんであることには間違いありません。

[投稿日]2015年10月05日  [最終更新日]2018年9月23日
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