本書『数えからくり』は、『女錠前師 謎とき帖シリーズ』の第二弾となる長編の痛快時代小説です。
前作『緋色からくり』ほどの面白さを維持しているものなのか、期待しつつ読んだのですが裏切られない面白さでした。
緋錠前の作り手である緋名にある日、旗本三井家から注文が舞い込んだ。だが、頼まれたのは姫を幽閉するための、開かずの錠前―。一方、緋名の幼馴染で髪結い師の甚八は、硯問屋の大門屋へ赴く。そこで彼は、美人と評判の末娘が惨殺されたことを知る。大店の娘殺し、神隠しの因縁、座敷牢に響く数え唄、血まみれの手…。この事件、一番の悪人は誰なのか。謎とき帖シリーズ第二弾。(「BOOK」データベースより)
本書でも人が良すぎて何かと面倒事に巻き込まれる緋名(ひな)は健在でした。勿論緋名の後見人的存在を自負している髪結い師の甚八も、猫の大福も、それに隠密同心の榎康三郎もそのままに登場しています。
甚八は同業者の頼みで硯問屋の大門屋(おおとや)へ髪結いに行くことになった。ところが、大門屋では美人姉妹と評判の娘の妹のおよしの弔いが出されようとしていた。一方、緋名は牛込御門の南にある旗本の三井家へ錠前仕事の呼び出しを受ける。屋敷に行くと、そこには座敷牢に閉じ込められた娘がいた。この娘がどのようにしてか牢を抜けだし、手を血で染めた状態で見つかるというのだ。そのために余人では開けられない錠前が必要だという。しかし、娘を閉じ込めるための錠前仕事はできないと断る緋名だった。
とても読みやすく、楽に読み進めることが出来ます。登場人物の心理を情感豊かに、またコミカルな表現も交えながら描き出すこの作家の文章は私の好みにぴたりとはまる文章なのでしょう。
非常にストレスなく読み進めることができ、じっくりと読むことも、斜め読みで飛ばし読みすることも楽にできそうです。
宇江佐真理のように、人情味豊かでしっとりと心に染み入る、とは言いませんが、それでも季節の風情をそこここに挟みこんでの心象の描写などは、やはり私の好みに合致しているのです。
若干、途中で筋が見えにくくなることも無きにしも非ずでしたが、そんなに込み入った謎が設定されているわけでもないので、それは読み手が雑だったのでしょう。
他にあまりケチをつけるところも無い本書ですが、ただ、本書の鍵となる章毎に示される数え唄が少々無理があるのかな、という気はします。確かに、謎解きのキーにはなっているのですが、この形式にする必要があったのかは疑問です。
ともあれ、今後の展開が楽しみな作品です。