錠前破り、銀太 シリーズ(2018年06月23日現在)
このシリーズは、田牧大和の他のシリーズのスピンオフ作品として書かれた小説であり、またそれ以外のシリーズとも世界を共通にしているという独特な構成の小説です。
そのひとつは、『からくりシリーズ』です。本『錠前破り、銀太』シリーズの第一巻目『錠前破り、銀太』に登場する女錠前師の誹名は、『からくりシリーズ』に登場する誹名と同一人物です。
そしてもうひとつは、主役級の役者以下の女形である「中二階女形」の濱次を主人公とする『濱次シリーズ』です。作者によると、そもそもこの『濱次シリーズ』のスピンオフとして本『錠前破り、銀太 シリーズ』が書かれたものだそうです。
そこらの詳しい事情は
に詳しいので、そちらを見てください。
本シリーズの読み始めは、凝った細工の鬢盥を持った女錠前師の登場に接しては、もしかして『からくりシリーズ』の誹名と同一人物か、と思ったものですし、もしそんな仕組みであるのならば、銀太の営む「恵比寿蕎麦」にお騒がせとして登場する森田座の大部屋女形たちが『濱次シリーズ』に登場する連中ならば面白いのに、などとも思ったものです。
その点が、上記の「もうひとつのあとがき」に上記の疑問は正しいものだと明記してあるのですから、田牧大和のファンとしては嬉しい限りです。
そして、その思いはシリーズ第二巻になると一層はっきりします。というのも、第二巻『錠前破り、銀太 紅蜆』には『濱次シリーズ』の主要登場人物の一人である有島千雀がこちらでも重要な役割を担って登場するからです。
こうした異なる物語で世界観を共通にさせるという小説手法は珍しいものではありません。近年読んだ作品でも、誉田哲也の『ノワール-硝子の太陽』と『ルージュ: 硝子の太陽』という作品がありますし、海堂尊の「桜宮サーガ」も物語が共通する世界で展開している作品として有名です。
本書の主人公は銀太といい、弟の秀次との二人で木挽町の近くの三十軒堀にある「恵比寿蕎麦」という蕎麦屋を営んでいます。ところが、この蕎麦屋は、銀太の茹でる蕎麦が不味いことで知られているのです。「菜や肴が旨い、うどんはまあまあ」だというのですから蕎麦屋としては致命的ですが、銀太の茹でる蕎麦以外はうまいこと、それに人懐こい秀次の人柄でもっています。
この銀太は、過去に盗人稼業に身を置いていた過去を持つなど、若干の秘密めいた過去がありますが、銀太の死んだ女房のおかるが伸びた蕎麦が好きだったなど、銀太の過去は早めに明らかにされます。
銀太と秀次兄弟には幼なじみで貫三郎と呼ばれている北町奉行所吟味方与力助役の及川吉右衛門がいます。銀太や秀次の知恵を借りながら、与力としての職務を果たしているのです。
銀二、秀次、それに貫三郎の三人を中心に、更に先に述べた誹名という女錠前師が加わって話は進むことになります。
当初は何故わざわざまずい蕎麦屋という設定にする意味がよく分からない、とか、登場人物の性格設定も今ひとつ、などとも思っていたのですが、第一巻目を読み終えてしまう頃にはやはり田牧大和の小説は面白い、と思っていたのでした。