『あきない世傳 金と銀(七) 碧流篇』とは
本書『あきない世傳 金と銀(七) 碧流篇』は『あきない世傳 金と銀シリーズ』の第七巻目で、2019年8月に角川春樹事務所から297頁の文庫書き下ろしで出版された長編の時代小説です。
本書では、いよいよ江戸へと出店した五鈴屋の、新たな商売の環境の中でいかに売上を伸ばすかを中心に描かれます。
『あきない世傳 金と銀(七) 碧流篇』の簡単なあらすじ
大坂天満の呉服商「五鈴屋」の七代目店主となった幸は、亡夫との約束でもあった江戸に念願の店を出した。商いを確かなものにするために必要なのは、身近なものをよく観察し、小さな機会を逃さない「蟻の眼」。そして、大きな時代の流れを読み解き、商いに繋げる「鶚の目」。それを胸に刻み、懸命に知恵を絞る幸と奉公人たちだが―。ものの考え方も、着物に対する好みも大坂とはまるで異なる江戸で、果たして幸たちは「買うての幸い、売っての幸せ」を実現できるのか。待望のシリーズ第七弾!(「BOOK」データベースより)
『あきない世傳 金と銀(七) 碧流篇』の感想
本書『あきない世傳 金と銀(七) 碧流篇』は『あきない世傳 金と銀シリーズ』の第七巻目で、、いよいよ江戸への出店を果たした幸の新たな環境での戦いの日々が描かれます。
やっと江戸出店を果たした幸でしたが、呉服商「五鈴屋」七代目店主としての幸には天満組呉服仲間からの「女名前禁止」という制限があり、あと一年で新しい店主を見つけなければならない立場にありました。
そんな中、「帯結び指南」という新しい試みも、お竹や、やっと大坂からやってきた幸の妹の結らの努力により軌道に乗ってきつつありました。
しかし、江戸での売り上げは伸び悩み何らかの手当てをしなければなりません。
幸は、番頭の次兵衛から「知恵は何もないところからは生まれない。盛大に知識を蓄えよ。」というかつて言われた言葉を思い出していました。
そこで考えたのが値も抑えられる型紙を使って染める小紋染です。士分のものしか身につけてはいけないと思われている小紋染めを、町人も切られたらどうだろうと考え始める幸だったのです。
本書『あきない世傳 金と銀(七) 碧流篇』では、いよいよ幸の江戸での活躍が本格的に始まります。
「帯結び指南」での工夫も上手くいくなか、大坂の筑後屋の人形遣いで智蔵の友人だった亀三から尋ねるように言われていた菊次郎という名の歌舞伎役者からも、弟子の木綿の稽古着の裏地を絹で仕上げるという新たな発想の仕立てを依頼されたりもします。
一方、天満組呉服仲間からの「女名前禁止」の件も、仮にではありますが一応の落ち着きを見せ、新しい挑戦である小紋染めも始まります。
この小紋染めという考えも、既成概念に縛られないという柔軟な考えのもとで出てきたものです。
それなりに順調に進んでいるように思える『あきない世傳 金と銀(七) 碧流篇』での五鈴屋の商売ですが、そううまいことばかりでもありません。
五代目徳兵衛の惣次の影がふたたび登場してきたことが、今後の五鈴屋の行く末にどのような影響を与えるものか、何となくの不安を感じさせる展開です。
そしてそのことは幸の生き方にもかかわってくるのであり、目が離せない展開となっています。
いまさらですが、高田郁という作者の文体も確立されていて、こちらのほうも心地よいリズムが感じられます。
短めの文章で情景を的確に描写し、その描写に乗せて人物の心象をも語り、その上で必要があれば一歩踏み込んだうえでの内心を記す。
そのリズム感がなかなかにいいのです。