『あい – 永遠に在り』とは
本書『あい – 永遠に在り』は2013年1月に刊行され、2015年2月に429頁の文庫として出版された長編の歴史小説です。
北海道開拓に身をささげた関寛斎の妻あいの姿を描く、感動の長編時代小説です。
『あい – 永遠に在り』の簡単なあらすじ
上総の貧しい農村に生まれたあいは、糸紡ぎの上手な愛らしい少女だった。十八歳になったあいは、運命の糸に導かれるようにして、ひとりの男と結ばれる。男の名は、関寛斎。苦労の末に医師となった寛斎は、戊辰戦争で多くの命を救い、栄達を約束される。しかし、彼は立身出世には目もくれず、患者の為に医療の堤となって生きたいと願う。あいはそんな夫を誰よりもよく理解し、寄り添い、支え抜く。やがて二人は一大決心のもと北海道開拓の道へと踏み出すが…。幕末から明治へと激動の時代を生きた夫婦の生涯を通じて、愛すること、生きることの意味を問う感動の物語。(「BOOK」データベースより)
『あい – 永遠に在り』の感想
本書『あい – 永遠に在り』の主人公あいは、73歳にして北海道開拓に身を捧げた関寛斎という医師の妻で、自らも夫と共に68歳のときに北海道へ渡ったそうです。
あいに関しては記録が殆ど無く、「手織りの木綿の布地が少し、着物一枚、帯締め、家族写真数葉。現存するものはそれだけです。あとは「婆はわしより偉かった。」等の寛斎の言葉がのこるのみ。その言葉に着目して、あいの物語を構築しました。」と、あとがきにありました。
資料が少ないとはいえ、実在の人物を描くのです。作家はその実像とのギャップをどう折り合いをつけるのか、疑問に思っていました。
しかし、作者の高田郁はあいの実際の遺言を読んで胸を打たれたそうで、その遺言も本書の中に紹介してあります。夫への愛情にあふれたその遺言からは、本書で描かれたあいは実像そのものと思えました。
『みをつくし料理帖シリーズ』等の作品より一歩踏み込んだ感じのする、これまでの高田郁作品とは異なった作品です。「逢」「藍」「哀」「愛」という4つの章建ても見事なこの本は、あいと、真っ直ぐにしか生きられず何事にも不器用な寛斎との愛に満ちた物語でした。
蛇足ですが、関寛斎の後援者として描いてある濱口梧陵のことは、安政南海地震津波の時の、ある庄屋の人助けの話である「稲むらの火」という小泉八雲の作品の翻訳・再話の中でも語られています。この濱口梧陵という人がまた素晴らしい人だったらしく、一編の物語が出来そうです。