『駅の名は夜明 軌道春秋Ⅱ』とは
本書『駅の名は夜明 軌道春秋Ⅱ』は『軌道春秋シリーズ』の第二弾で、作者自身によるあとがきまで入れて371頁の文庫本書き下ろしで、2022年10月に刊行された短編小説集です。
この作者の長編作品に比べると感傷に流された作品が多い印象の作品集でした。
『駅の名は夜明 軌道春秋Ⅱ』の簡単なあらすじ
妻の介護に疲れ、行政の支援からも見放された夫は、長年連れ添った愛妻を連れ、死に場所を求めて旅に出る(表題作「駅の名は夜明」)。幼い娘を病で失った母親が、娘と一緒に行くと約束したウィーンの街に足を運ぶ。そこで起きた奇跡とは?(「トラムに乗って」)。病で余命いくばくもない父親に、実家を飛び出し音信不通だった息子が会いにいくと…(「背中を押すひと」)。鉄道を舞台に困難や悲しみに直面する人たちの再生を描く九つの物語。大ベストセラー『ふるさと銀河線 軌道春秋』の感動が蘇る。(「BOOK」データベースより)
目次
『駅の名は夜明 軌道春秋Ⅱ』の感想
本書『駅の名は夜明 軌道春秋Ⅱ』は前著『ふるさと銀河線 軌道春秋』と同様に、「トラムに乗って」から「ミニシアター」までのうち「夜明の鐘」を除く六編は深沢かすみ氏の漫画の原作として書かれたものだそうです。
本書冒頭からの二編ずつが、ウィーンの路面電車のトラムを舞台にした話、北海道のローカル鉄道にあるという「レストラン駅舎」という架空の食堂を舞台にした話、JR九州の久大本線に実在する「夜明駅」を舞台にした話になっています。
本書掲載の各物語を一言でいえば、話が都合がよすぎると要約できます。
登場する人物たちはそれぞれに苦悩を抱え、悩み、苦しんでいて、そこにたまたま居合わせた婦人や近くの店の人などの助けが入り自ら立ち直っていきますが、その流れがいかにも単純であり、安易に感じられてしまいました。
ですから、『ふるさと銀河線 軌道春秋』の項でも書いたと同様に、本書においてもまた「若干の感傷が垣間見える作品集」と言わざるを得ません。
ただ、そこでは「’感傷’の香りも後退してい」ったと書いていますが、本書の場合は全編が感傷の香りが強いと言ってもいいと思われます。
視覚に訴える絵という媒体を通す漫画が短いコマ数の中で物語を描き出す場面では、本書『駅の名は夜明 軌道春秋Ⅱ』の各短編のような単純な物語こそが生きてくるものなのかもしれません。
しかし、小説の場合、文字を通して想起される読者のイマジネーションだけで全部が構築されます。
その場合、あまりに単純な展開では足りず、作者の表現力によって読者の想像を導くにしても限界があると思われ、結果として本書の場合あまりうまく行っているとは思えませんでした。
同じようなことは、青山美智子の『マイ・プレゼント』という作品でも感じたことがあります。青山美智子の長編作品では感動的な物語が紡がれているのに、同じ作者の短編ではどうしても感傷的に過ぎるとしか感じませんでした。
ただ、本書『駅の名は夜明 軌道春秋Ⅱ』の最後の「背中を押すひと」は、作者の高田郁が作家としてやっていくきっかけとなった作品だそうで、私の個人的な事情も重なり、それなりに心に沁みました。
私の亡父が職場で倒れた折り、駆けつけた私が背負って病院まで連れて行ったのですが、その軽さに驚いた記憶に結びついたのです。
この作品は作者が加筆修正されているので当時の文章そのままではないのですが、作者の高田郁が最初に書いた作品であり現在の高田郁の原型はあるのではないでしょうか。
そして、時代小説での主人公の頑張る姿の描写へと繋がっていると思うのです。
結局、本書『駅の名は夜明 軌道春秋Ⅱ』は単純にストーリーだけを追っていくには気楽に読める作品でしょう。
しかし、私とってはそこを越えて心に迫るものがあるかと言えばちょっと難しいと言わざるを得ない作品集だったと言わざるを得ませんでした。