梶 よう子

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新刊書

集英社

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小石川御薬園での毎日を植物の世話に明け暮れる水上草介(みなかみそうすけ)のもとに、吉沢角蔵(よしざわかくぞう)という二十歳そこそこの見習い同心がやってきた。角蔵は何事にも融通が聞かず気難しく、園丁達からは堅蔵(かたぞう)と呼ばれるほどの堅物なのだが、更には角蔵とは正反対の性格の妹美鈴まで現れ、二人して草介の日常に何かと問題を巻き起こすのだった。一方、千歳との仲は相変わらずで、ただ、千歳の振る舞いが折に触れ草介の胸の奥に奇妙な痛みをもたらしていた。その千歳に縁談が持ち上がる。

柿のへた 御薬園同心 水上草介』の続編です。相変わらずに読後感が爽やかです。この作者の作品を何冊か読んでくると、作品を読んでいる時間がとても幸せに感じられるほどに、作者の視線の優しさが感じられます。作者の生きることに対する姿勢そのものがにじみ出ているのでしょう。

特に本シリーズは主人公草介とその上司の娘千歳との会話が、ほのぼのとしていながらもユーモアに満ちていて、作品全体のありようを決めています。恋に不器用なお人好しとお転婆娘という、ある種定番の二人ではあるのですが、作者の筆の上手さはパターン化を越えたところで読ませてくれるようです。

また、本書で言えば吉沢角蔵というどこか石垣直角(後記参照)を彷彿とさせるキャラクターを登場させ、その妹の美鈴の存在と併せ、物語の幅が一段と広がっています。

ちなみに「石垣直角」とは、小山ゆうが描いた、天下の名門・萩明倫館の学生・石垣直角(いしがき ちょっかく)と、直角の家族・仲間が繰り広げる痛快時代劇コメディ漫画『おれは直角』の主人公です。。

植物を相手とする物語と言えば、 朝井まかての『先生のお庭番』はシーボルトの屋敷の薬草園を管理する庭師の物語でした。こちらが日本賛歌であるならば、本書は人間賛歌と言えるでしょう。

ついでに言えば、前作の『柿のへた 御薬園同心 水上草介』でも書いたように、漫画の『家栽の人』という作品は本作に似ています。家庭裁判所の裁判官である主人公は植物が好きで、本書の草介同様に植物になぞらえて当事者を説諭したり、語ったりします。

本書のタイトルの「桃のひこばえ」とは「樹木の切り株や根元から生えてくる若芽のこと」だそうです。「元の幹に対して、孫のような若芽」ということで呼ばれているらしく、漢字を当てると「孫生え」だそうです。

[投稿日]2015年04月09日  [最終更新日]2016年1月30日
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