梶 よう子

イラスト1
Pocket


鍋釜から、手拭い、紅まで店に並ぶものは三十八文均一の「みとや」。猪牙舟を漕がせたら船頭も怖れる看板娘・お瑛と、極楽とんぼの兄・長太郎が切り盛りする。ある日、お瑛は売り物の簪が一本足りないことに気づく。消えた簪を探すうちにお瑛は、その意匠の秋の七草から、元吉原の花魁・お花にたどりつくのだが…。江戸下町の人情あふれる時代連作短編集、シリーズ第二弾。(「BOOK」データベースより)

 
目次

鼻下長物語 / とんとん、かん / 市松のこころ / 五弁の秋花 / こっぽりの鈴 / 足袋のこはぜ

 

『みとや・お瑛仕入帖シリーズ』の第二弾で、六編の連作短編からなる人情時代劇です。

「みとや」とは、「食べ物以外なら何でも扱う三十八文均一の店」であり、ようするに江戸の百均です。

シリーズものと知らずに借りてきた作品です。読み始めてすぐに何か変だと思い、本の帯を見たら「みとや」シリーズ第二弾だとありました。

とはいえ、独立して読んでもそれなりの面白さを持った作品です。

兄長太郎の仕入れてきた品物に絡む話を横軸に、長太郎・お瑛兄妹の身の上に絡む話を縦軸として話は展開します。

本書では冒頭から「みとや」の近くに元吉原花魁のお花が惣菜の店を開きますが、このお花も本書の新しい登場人物として物語に少しずつからんできます。

 

鼻下長物語
兄の長太郎が仕入れてきた≪黄表紙≫に挟まれていた錦絵に描かれていた風景が、母親と共にいたお瑛の記憶と重なり、本書を貫く風景探索のきっかけとなります。

一方、長太郎の友人の寛平が、一緒になると約束をしていた吉原花魁の中里が旗本に身請けされてしまうと泣きついてきたのを、お瑛の機転で助けることになるのです。

とんとん、かん
お瑛は、船大工の茂兵衛に猪牙舟の櫓を薄くしてもらいにきた折に、猪牙舟での競争を挑まれます。競争の当日、相手の辰吉は、自分の親父の形見を使い強盗をした男から形見を取り返してきたと顔を腫らしてきたのです。

市松のこころ
ある日長太郎が入れてきた市松人形を見に、一人の幼い男の子が毎日「みとや」の店先に現れるようになります。その人形はその男の子に捕り大切なものでした。「みとや」の店先からその人形を盗った男児は、逃げる際に川へ落ちてしまいます。

五弁の秋花
長太郎が菅谷直之進に頼まれ仕入れてきた五弁の花が三つ彫られている平打ちの簪をお花に贈ります。粟花と呼ばれているこの花は別名を「女郎花」と言ったのです。

こっぽりの鈴
ある日、「みとや」で盗品を売っていると噂が立ちます。そこに、お春という女が役人をともなってきて、自分の店から盗まれたものに間違いないと言いたてるのでした。そんななか、お瑛はおせんに誘われて永代橋まで行きますが、おせんはお瑛に冷たい仕打ちを取るのでした。

足袋のこはぜ
長太郎に盗品の下駄を売り付けたのは、役人が持ってきた盗人の似顔絵に描かれている人物でした。その男を捕まえると、長太郎かけられた疑いを晴らすことができるのでした。

[投稿日]2018年08月24日  [最終更新日]2018年8月24日
Pocket

おすすめの小説

女性が描くおすすめの人情小説

上絵師 律の似面絵帖シリーズ ( 知野 みさき )
上絵師として独り立ちしようとする律という娘の、一生懸命に生きている姿を描く長編の人情小説です。事件に関する似面絵を描くことはあっても、事件について探索する姿中心ではないので捕物帳ではなく、律の恋心や、上絵師としての成長などが描かれる物語です。
みをつくし料理帖シリーズ ( 高田 郁 )
天涯孤独の身である澪は、かつての雇い主であった大阪の「天満一兆庵」の再興を夢に、江戸は「つる家」で様々な事件を乗り越えて生きていく。
善人長屋 ( 西條 奈加 )
『金春屋ゴメス』で第17回日本ファンタジーノベル大賞を受賞した著者の、人情味にあふれた連作の時代短編小説集です。
しろとましろ 神田職人町縁はじめ ( 知野 みさき )
縫箔師として身を立てている、もう二十六歳にもなる咲という名の女職人を主人公とした人情小説です。ひょんなことから知り合った修次という簪職人とともに、いずこともなく現れたしろとましろという双子の子らを狂言回しとしながら、心がほんのりと暖かくなる人情話を繰り広げます。
濱次シリーズ ( 田牧 大和 )
梅村濱次という歌舞伎の中二階女形を主人公にした作品です。軽く読めるのですが、それでいて舞台小屋の小粋な雰囲気が全編を貫いている、人情小説といえると思います。ミステリー性はあまりありません。

関連リンク

梶よう子 『五弁の秋花―みとや・お瑛仕入帖―』 | 新潮社
まず、この「みとや」について説明しておくと、食べ物以外なら何でも扱う三十八文均一の店。ようするに江戸の百均である。当時の三十八文というのは、かけそば二杯と湯屋代を足したくらいの銭だというから、百均ではないか。もう少し高いかも。
作家・梶よう子さんの「人生最高の小説10選」 - 現代ビジネス
小さい頃は病弱で、病院へ行くか、家で寝ていることが多かったんです。母はいつも、病院の近くの本屋さんで本を買ってくれました。絵入りの『小公女』とか、『フランダースの犬』とか。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です