梶 よう子

イラスト1
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本書『ことり屋おけい探鳥双紙』は、飼鳥屋(かいどりや)「ことりや」の女主人おけいを主人公とする連作の中編小説集です。

「かごのとり」「まよいどり」「魂迎えの鳥」「闇夜の白烏」「椋鳥の親子」「五位の光」「うそぶき」という七編の短編からなる、江戸は日本橋小松町で、未だ帰らぬ夫を一人待つ女を描く人情物語だ。

 

亭主の羽吉(はねきち)が、夜になると胸元が青く光る鷺(さぎ)を探しに旅立ってから三年が経つ。

羽吉と同道した旗本お抱えの鳥刺しは一人で江戸に帰ってきていたが、羽吉とははぐれてしまい消息は判らないという。おけいは、羽吉のいない年月を「ことりや」を守ることに捧げているのだった。

 

どの物語も、おけいが一人寂しさに耐えながらも、店を訪れる客や定町周りの永瀬の持ち込む話に一生懸命に耳を傾けつつも、鳥にまつわる疑問を解いていきます。

そのことが事件の裏に隠された真実を暴きだし、そこにある人間模様が心に沁み入る物語として描き出されているのです。

例えば最初の「かごのとり」では、おけいは小鳥が好きでも無さそうな娘が次々と小鳥を買い求めていく理由(わけ)を知り、その娘に「もう小鳥はお売りできません」と告げます。

そして、その娘の行いに隠された真実と向き合わせ、かたくなな娘の心を開いて行くのですが、そこで展開される人間模様が読者の心を打つのです。

 

登場人物としては、あの『南総里見八犬伝』の作者である曲亭馬琴が、客として、また良き相談相手としておけいの後見人的立場で登場します。

次いで、北町奉行所の永瀬八重蔵という定町周りが物語の定番としており、この永瀬が持ち込む相談も、おけいが謎ときをしていくことになります。

 

若干、物語のきっかけとなる出会いなどに、強引さが気になるところもあります。しかし、この作者の話の進め方の上手さなのでしょうか、優しく語られる物語の先行きが気になり、きっかけの強引さも気にならなくなってしまいます。

本書『ことり屋おけい探鳥双紙』でもおけいにとっての一大事は巻き起こりますが、強烈な事件という事件は起きません。

その点では物足りなく感じる人がいるかも知れません。でも、人情ものの中でもより視点の優しいこの作家の物語は、一息つける時間でもあると思うのです。

[投稿日]2015年04月09日  [最終更新日]2020年8月7日
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