麻生 幾

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文庫

幻冬舎


2001年9月11日、同時多発テロ発生、翌日もたらされた日本国内でのテロ情報に衝撃を受けた警察庁幹部は、かつて欧州で活躍した“伝説のテロハンター”を静岡県警から呼び戻そうとする。そして彼が運営していたスパイ“V”を目覚めさせようと試みるが…。日本警察が行ってきた国際テロ捜査の現実をリアルに描き切る警察小説の決定版。(上巻 : 「BOOK」データベースより)

10年以上のブランクを経て、“伝説のテロハンター”名村は警察庁に復帰した。彼はかつてのネットワークを駆使し懸命に情報収集に当たっていく。だが捜査をかいくぐるように発生してしまう細菌テロ。次々と倒れていく人々。次の大規模テロを防ぐことはできるのか?日本の細菌感染への危機管理とテロ対策を徹底取材、圧倒的迫力で描く警察小説。(下巻 : 「BOOK」データベースより)

 

地方警察出身の警察官が国際舞台で諜報の世界へと乗り出し、日本をターゲットとするテロを防ぐために活躍する長編の冒険小説です。

 

1977年にバングラデシュのダッカで起きた日本赤軍による日本航空機ハイジャック事件で、犯人らの逃亡先である中東エリアに何の情報源も持っていなかった日本警察は、「警備官」という名での職員の海外派遣を行うこととしました。

そうした背景のもと、静岡県警公安課に所属していた本書の主人公名村奈津夫は、エジプトのカイロの日本大使館の「警備官」として勤務することになります。そして大使館員の厳しい監視の目をかいくぐり、警察庁から与えられていた情報収集のための伝手を作るという「本来の任務」を遂行するのです。

そんな中、エジプト国家治安機関の最高幹部と約束を優先し帰国命令を無視した名村は、静岡県警の警ら部自動車警ら隊補佐へと異動を命じられてしまいます。

その後、警察庁警備局長の若宮は、アメリカの情報筋から「日本人女性が日本をターゲットにしたテロ計画の中で徴募され、総理官邸を最終目的としたテロが計画されている」という情報を得ます。

そこで名村は再び日本赤軍ハンターとしての活動を命じられることになったのです。

 

エジプト大使館の警備官として派遣された地方警察の公安警察官が、国際社会の情報戦のさなかに飛び込み、日本のために新たな情報収集のルートを開拓していく姿が描かれるとともに、新たに知りえた情報をもとに日本でのテロ行為を阻止するために活躍します。

同時に、一つのパターンではありますが、行政や警察の官僚らが日本国をテロリストの手から守るために行動する中にも、自らの出世を第一義においている姿なども描かれています。

 

本書で描かれていた名村の行動の一つに、情報獲得のための伝手づくりのために、エジプトの国会議員や在カイロのシリア企業の集まりへ飛び込みで訪れてアラブ世界の勉強のために専門家を紹介してほしいと頼み込む、という描写がありす。

数行程度の描写ではありましたが、世界のどこかではこうした作業を現実に行った人間がいるのだろうと、そうした作業のうえに私たちの平和な生活があるのだろうと妙に気にかかりました。

 

そして、主人公名村に対するヒロイン的な存在である晴香・ハイマという存在がいます。シリアのカフェ経営者であった彼女は名村のリクルートにより種々の情報を提供してくれます。

特に物語も後半になると、日本に対するテロ工作の情報をもたらして物語の流れを急転回させるという重要な役割を担っているのです。

ただ、テロ情報をもたらす晴香の行動は、物語の都合上とはいえ唐突であり、その点についての説明は納得のいくものとは思えませんでした。

 

ついでに気になる点を書くと、この作者のほかの作品と同様にその描写はすべての面において緻密です。しかしその割にはストーリの展開上は説明不足と感じるところが少なからずありました。

また視点も頻繁に切り替わっているため、ストーリーを簡単に見失ってしまいがちになります。

こうした点は読み手の好みの問題だとも言えそうで、あまり声高に言うところではないかもしれません。

 

上巻は、名村の中東でのケースオフィサーとしての作業を中心に描写してあり、後半は日本国内でのテロリストの持ち込んだウイルスの行方とそれを追う名村の行動、パンデミックの描写と盛りだくさんです。

前述のような不満点も多々ありますが、それでもなお面白い小説です。さらにほかの作品にも手を伸ばすことになると思います。

 

この作家の『アンダーカバー 秘録・公安調査庁』や『ZERO』の項でも書いたのですが、リアリティに富んだインテリジェンス小説はそう多くは無いようです。

[投稿日]2019年02月02日  [最終更新日]2019年2月2日
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