竹内 明

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中国の謀報機関・国家安全部の辣腕工作員と、警察に紛れ込んだ「潜入者」の罠にかかり、公安部を追われた元スパイハンター・筒見慶太郎。だが、左遷先のニューヨークで発生した外務大臣毒殺未遂事件を機に、8年の月日を経て再び彼らと対決の時が―。極秘の存在とされる公安部ウラ作業班の元精鋭たちが再び立ち上がる。これが国際謀報戦の現実だ!(「BOOK」データベースより)

警視庁公安部外事二課を舞台にした珍しい、長編推理小説です。

「警視庁公安部」とは、日本で唯一「公安部」を置いている警察組織で、その中の外事二課とは、「東アジア、特に中国、北朝鮮のスパイに関する捜査・情報収集、不法滞在やアジア人犯罪に関する捜査を行う。」部署だそうです( ウィキペディア : 参照 )。

本書は少々読み方を気をつけていないと混乱しそうになります。というのも、何の前置きもないままに始まり、多数の登場人物や人物背景などが物語が進む中で次第に明らかにされていくからです。

更には各章の冒頭に挿話が挟まれているのですが、この話が過去のものなのです。よく読むと、章中の各項の見出しには ■ 印と共に時間と場所も明示してあるのですが、この挿話の部分には何も表示してありませんでした。

こうした点に気づかない読み手こそ問題ありというべきなのかもしれませんが、もう少し分かりやすくしてもらえればとは思います。更には、本書の冒頭の<登場人物紹介>という一覧には約四十人ほどが紹介されていますが、それら多くの人物が過去と現在とで錯綜し、ストーリーも複雑なのです。

ニューヨーク日本国総領事館の警備対策官である筒見慶太郎は、もともと警視庁公安部外事二課に勤務しエースと目されていたのですが、八年前に起きたとある事件のために現場から退き、現在はニューヨーク日本国総領事館の警備対策官として働いていました。

その筒見がニューヨークで起きた外務大臣毒殺未遂事件に際し、自分が現場から追われることになった原因となる人物の影を見出します。そのころ日本では「影の公安部長」と呼ばれていた人物の不審死に伴い、公安内部での各作が行われていました。筒見は過去のチームを招集し、これらの事件の真実を追い始めるのです。

初めての小説だからと思われる前述の難点はあるものの、物語としての面白さ、リアリティの凄さは否めません。現場を知るものだからこそ書ける世界なのだと思えます。

同様に公安の世界をよく知る作家として、本物の公安警察員だったという経歴をもつ作家がいます。濱嘉之という人で、『警視庁情報官シリーズ』などの作品を発表されていますが、この人の作品もやはりそのリアリティーに圧倒されます。小説家としてはまだ経験が浅い点も同様ですが、それでも現場を知る人の強みが十分に生かされた小説であることは間違いなく、デビュー作からして読み手を引きつけるだけの文章力を持った方である点も同様です。


リアリティーという点ではなく、小説家の描くエンターテインメント小説としての面白さを十分に持った公安関連の作品といえば、やはり今野敏の『倉島警部補シリーズ』と、逢坂剛の『百舌シリーズ』が挙げられると思います。他にも多数の作家がいて多くの作品が出版されているのですが、最初に思いだす作家としてはこのお二人でした。

より軽く読みやすいという点では前者であり、より重厚感があるという点では後者でしょうか。共に面白さという点ではトップレベルの作品だと思います。

作者の竹内明という人はTBSの報道記者として第一線で活躍していたジャーナリストで、「Nスタ」キャスターなどを務めた経験もある人です。ウィキペディアによりますと、親族に現財務大臣の麻生太郎氏などを有しているそうですが、何よりも「FBI・CIAの対テロ戦争の裏側や国連を中心に取材」した経験など、ジャーナリストとしての業績に目を見張るものがあります。

この人がその取材力を生かして書き上げた初めての小説が本書です。とにかく、インテリジェンスの世界のリアリティーがすごいという評判一色の本書です。

[投稿日]2017年12月13日  [最終更新日]2017年12月13日
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