麻生 幾

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日本国内で国際テロに対抗する極秘組織・外事警察。彼らの行動はすべて厳しく秘匿され、決して姿を公に晒さない―。高まっていく日本へのテロ攻撃の可能性、その実態を懸命に探る警視庁外事第3課・住本に舞い込んだ情報とは…。熱気をはらんで展開する非情な世界を描き切り、ドラマ「外事警察」の原点となった傑作警察サスペンス小説。(「BOOK」データベースより)

 

日本国内でのテロを防止するために秘密裏に活動する警視庁外事3課員の姿を描く、長編のサスペンス小説です。

 

作者麻生幾の『ZERO』や『ケース・オフィサー』などの作品でもそうでしたが、本書も非常に物語の筋が入り組んでいます。

 

 

日本国内を舞台にしたテロリストの活動を防止すべく活動する警視庁外事第三課の必死の攻防が描かれている、と本当におおざっぱに言えばそうなります。

 

登場人物もこの作者のほかの作品と同様に多数登場します。

中心となるのは主人公の警視庁外事第三課作業班班長住本健司警部補およびその部下の巡査部長たちの、久野秀真、五十嵐彩音、金沢涼雅、森永卓也、大友遥人という住本班のメンバーです。

また警視庁外事第三課作業班係長滝沢大聖警部、警察庁警備局長の有賀正太郎、警察庁協力者獲得工作・特命作業指揮本部責任者の倉田俊貴、警察庁国際テロリズム対策課長の尾崎毅などが一応の重要登場人物と言えるでしょう。

そのほかに、警視庁SATの関係者がいて、加えて重要な役割を持つ三重県警S警察署交通課員の松沢陽菜巡査長や、内閣官房長官の村松久美、そしてその秘書の前野徹などもいます。

それだけでなく、住本の住本の協力者であるニケや、イマール共和国から来た看護師で国立東京トラウマ(外傷)センター研修生のユニなどもいます。

 

ざっと主だった登場人物だけを挙げてもこれだけの人物がいて、そのそれぞれに結構重要な役割をになっています。

その上ストーリーは複雑であり、この作者のいつもの作品と同じく、緻密な取材に基づく描写もまた詳細です。

例えば中心となる住本らの活動だけではなく、テロリスト側の視点、倉田ら警察内部での各個の思惑、それを利用しようとする内閣官房長官やその秘書らの思惑が複雑に絡んでいて、それらを詳細に叙述してあるだけにわかりにくさは倍加しています。

また、そうした心理戦だけではなく、テロリストの破壊活動とそれに応じる警察組織との攻防に伴う活劇場面が用意されていることもまた他の作品と同様です。

 

こう書いてくると本書はほかの作品との差異がないように思えてきますが、当然のことながら舞台設定や、ストーリーはもちろん異なります。

主人公の所属を見ると、『ZERO』では警視庁公安部外事第二課に所属しており、『ケース・オフィサー』では地方警察出身の警察官が警察庁へ出向し、警備官として国外の大使館に勤務していて、本書の主人公は警視庁外事第三課の所属であり、それぞれに異なっているのです。

しかし、正直なところ、これらの勤務先の差異がまだよくわからないでいます。その上、情報収集の協力者を育てるという職務内容もあまり異ならないような気もして、その点での差異もよくわかりません。

 

とはいえ、そうした差異はあまり分からなくても、また小説作法として決してうまいとは言えなくても、物語としてはかなり面白いから困ります。

緻密な描写にしても、詳細に過ぎると思いつつも、だからこそ小説としてのリアリティが増しているとも思われ、実に悩ましい小説でもあります。

この点は、現役の公安警察職員であったという濱嘉之の作品である『警視庁情報官シリーズ』などの作品もかなりのリアリティを持ったインテリジェンス小説でした。

 

 

しかし、本書の作者麻生幾氏の作品はさらにその上を行くと言ってもいいほどの緻密さを持ちます。

さらには月村了衛の描く『機龍警察』や、大沢在昌の『天使の牙シリーズ』のようなアクション小説にも負けないような活劇場面など、いろんな顔を持つ作品群だと言えるのです。

 

 

そのような面白さを持つものがたりだからこそ、文庫本で五百頁を超える物語であっても最後まで読み通すことができるのかもしれません。

[投稿日]2019年03月05日  [最終更新日]2024年4月26日
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