朝井 まかて

イラスト1
Pocket

新刊書

双葉社

写真は Amazon にリンクしています。

楽天Booksは 落花狼藉 [ 朝井 まかて ] へ。


戦国の気風が残る、江戸時代初期。葦の生う辺地に、ひとつの町が誕生した。徳川幕府公認の傾城町、吉原だ。公許は得ても、陰で客を奪う歌舞妓の踊子や湯女らに悩まされ、後ろ楯であるはずの奉行所には次々と難題を突きつけられる。遊女屋の女将・花仍は傾城商いの酷と華に惑い、翻弄されながらも、やがて町の大事業に乗り出す―。(「BOOK」データベースより)

 

傾城町として名高い江戸は吉原の勃興期を描き出した長編の時代小説です。

江戸の町を描く時代小説では忘れてはならない遊郭吉原の初期を描いた作品で、かなり引き込まれて読みました。

 

本書の主人公は本書の装丁画からくる印象にもかかわらず花魁ではなく、吉原の創設者である庄司甚右衛門の女房の花仍でした。

本書のタイトル「落花狼藉」とは、「花が散り乱れること。また、花を散らし乱すこと。」だそうです( コトバンク : 参照 )。主人公である花仍(かよ)の夢は吉原の町に桜を咲かせることであり、本書の締めにもなっている言葉です。

黎明期の吉原を描いた作品である本書は、その「落花狼藉」というタイトルにもかかわらず、絢爛豪華で、粋(すい)な吉原が描かれているわけではありません。

そうはなく、そうした派手な印象のある吉原になる前の遊郭吉原の姿が描かれています。

 

そもそも江戸の「吉原」は、本書の影の主人公でもある庄司甚右衛門が、駿府から移ってきて京の島原を模して作った町だそうです。

本書にも書いてあるように、当初は現在の東京の日本橋人形町にあったそうですが、明暦の大火を機に浅草寺裏の日本堤に移転することになったと言います(新吉原)。

新旧吉原の来歴については、詳しくは、ウィキペディアを参照してください。

 

ところで、吉原を描いた小説はかなりの数に上ります。

中でも印象的だったのは、直木賞も受賞している 松井今朝子の『吉原手引草』がまず挙げられます。この作品は、忽然と消えた花魁の葛城失踪事件の謎を追いながら、吉原そのものを鮮やかに描き出した時代ミステリーの傑作です。

 

 

次いで活劇小説としては、 隆慶一郎吉原御免状があります。吉原の成り立ちに徳川家康の「神君御免状」がからみ、宮本武蔵の秘蔵っ子や裏柳生らが死闘を繰り広げる痛快伝奇小説です。

同じく活劇小説として現在のベストセラーとして挙げられる作品に 佐伯泰英の『吉原裏同心シリーズ』があります。薩摩示現流の達人である主人公神守幹次郎が、吉原の用心棒として、幕府の大物を相手に戦いを繰り広げる、痛快時代小説です。

 

 

本書の舞台は、吉原で最も古い大見世の西田屋という傾城屋、つまりは女郎屋です。

徳川家康が江戸幕府を開き町を造成したのに合わせ、二十年ほど前にこれからは江戸だとあたりをつけ、駿府から出てきて傾城屋を開いたのが西田屋の主人の甚右衛門です。

その甚右衛門が十二年ほど前に江戸の主だった傾城屋を集め、自分らを守るためにも必要だとして傾城町を作ることを公儀に願い続け、やっと認められた時代から本書は始まります。

 

本書での主人公花仍は四、五歳の頃に甚右衛門に拾われた身であり、子供の頃は鬼花仍と呼ばれるほどの元気者で、遣り手の口やかましいトラ婆や番頭の兄貴分のような清五郎に見守られながら西田屋で娘分として育ってきました。

花仍は、他の小説の主人公のように自分で判断し、主体的に巻き起こる問題に関わり、これを解決していく、ようなことはほとんどありません。

それどころか、甚右衛門の足を引っ張りかねないことをしでかし、トラ婆や、吉原でも名うての揚屋の松葉屋の女将の多可らに助けられながらも、暮らしています。

甚右衛門や三浦屋四郎左衛門といった大物らが吉原の生き残りをかけて、吉原以外の女郎屋を営む連中や、無理難題を言ってくる公儀を相手に苦労するさまを傍で見ている花仍です。

でありながらも、格子女郎の若菜に見られるような苦労を可能な限り減らすようにしよとする花仍でもあります。

 

そんな、女郎屋の女将としての花仍の姿もありつつ、対象が女郎たちの世界ですから装束としての着物などの話題も随所に触れられており、例えば「襠(しかけ)」などという言葉が出てきてきます。

でも着物のことを知らない私にはイメージすら湧きません。「襠」とは「打掛」のことだそうですが、その「打掛」すら私にはよくわかりませんでした。

この点に関しては、

などを参照してみてください。

他にも、女郎専門の人買いの「女衒」にも、親が困って遊女屋へのあっせんを頼む「町女衒」や、諸国を回って娘を買ってくる「山女衒」の二種類がある、などの豆知識も散りばめられています。まあ、こうした知識は普通はいらないでしょうが。

 

ただ、花仍の男勝りの性格が少々半端に終わっていたり、花仍と娘鈴との確執が結局なし崩しになってるように思えたりと、気にかかるところもありました。

にもかかわらず、やはりこの作者朝井まかての作品は面白いと思わせられる作品でした。

 

ちなみに、本書の装丁画として使用されている日本画を描かれているのは黒川雅子という方で、直木賞作家の黒川博行氏の妻だそうです。以下は黒川雅子氏の画が装丁画として使用されている黒川博行氏の作品です。

 

[投稿日]2019年12月15日  [最終更新日]2019年12月15日
Pocket

おすすめの小説

吉原を舞台にした小説

吉原十二月 ( 松井 今朝子 )
大籬・舞鶴屋のふたりの花魁を中心に描かれる、四季風俗を織り込んだ、絢爛たる吉原絵巻!。
吉原純情ありんす国 ( 長島 槙子 )
未読です。しかし、吉原ものといういとまずこの本も挙げられます。早く読みたいと思います。
輪違屋糸里 ( 浅田 次郎 )
小説の一部で京都島原が舞台になってはいても、描かれているのは主題は新撰組なので、吉原関連の作品として挙げるには若干場違いかもしれません。しかし、面白さは保証つきです。
五番町夕霧楼 ( 水上 勉 )
こちらも舞台は京都島原です。しかし、遊郭が舞台ということで・・・。丹後の寒村に育ち、自ら遊女となった夕子と、同郷の幼友達である青年僧侶との悲恋物語。金閣寺焼失事件に題をとった名作。
吉原代筆人シリーズ ( 高山 由紀子 )
消えた男の行方を追って吉原にたどりついた雪乃。ぷっつり切れた消息の糸を掴むために吉原で生きることに決めた彼女は、読み書きのできない遊女にかわり手紙を綴る代筆屋を手伝うことになる。

関連リンク

雨と詩人と落花と 澤田瞳子|好書好日 - 朝日新聞デジタル
昨年のクリスマスイブとクリスマス、私は博多にいた。急逝された先輩作家・葉室麟さんのご葬儀のためである。久留米在住の葉室さんとは、京都に仕事場を置かれたのが縁で、年の離れた友人としてお付き合いさせて頂いた。
「落花狼藉」朝井まかて著|日刊ゲンダイDIGITAL
吉原の西田屋の女将、花仍(かよ)は、4、5歳の頃、ひとりで城下をうろついていたところを、遊女屋兼宿屋の甚右衛門に拾われた。長じて甚右衛門の妻となったのだが、当時は関ケ原の戦いの後で血なまぐさい空気が漂っていた。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です