有川 ひろ

図書館戦争シリーズ

イラスト1

本書『図書館戦争』は、『図書館戦争シリーズ』の第一作目で、文庫本で398頁のSFチックな長編小説です。

軽く読める本でありながら、表現の自由という重要な論点をテーマにした良質なエンターテイメント小説です。

 

図書館戦争』の簡単なあらすじ

 

2019年(正化31年)。公序良俗を乱す表現を取り締まる『メディア良化法』が成立して30年。高校時代に出会った、図書隊員を名乗る“王子様”の姿を追い求め、行き過ぎた検閲から本を守るための組織・図書隊に入隊した、一人の女の子がいた。名は笠原郁。不器用ながらも、愚直に頑張るその情熱が認められ、エリート部隊・図書特殊部隊に配属されることになったが…!?番外編も収録した本と恋の極上エンタテインメント、スタート。(「BOOK」データベースより)

 

「メディア良化法」という公序良俗を害すると思料される表現を取り締まることを目的とする法律が制定された世界、つまりは「検閲」が堂々とまかり通り、法律の名のもとに法務省管轄化のメディア良化委員会及びその執行機関である良化特務機関が検閲を実行している社会が舞台です。

行きすぎた「検閲」に対抗するために既存の図書館法を強化し、図書館も力をもつことが要求され、図書隊が設立されました。

本書の主人公である笠原郁は、高校生の時に書店で買おうとしていた本が良化特務機関の「検閲」にかかり没収されてしまいそうになります。

没収に抗おうとする郁を助けてくれたのが、たまたまその場に居合わせた図書隊員でした。その隊員を心の王子様として追いかけ、自分も図書隊員になったのです。

 

図書館戦争』の感想

 

身体能力の優秀さと本人の必死の努力の末に、全国初の女性隊員として武力の行使をも含めた図書館の全業務をこなす図書特殊部隊に選抜された笠原郁です。

その後、同期で同じ武蔵野第一図書館の柴崎麻子や図書特殊部隊である手塚光、それに上官の堂上篤小牧幹久らに助けられながらも、図書館業務に邁進する郁の姿が、コミカルに、そして本人のみひそやかと思っている恋模様をも描かれます。

圧倒的にリアルな「図書隊」という組織は、そのイメージは勿論自衛隊に被ります。そして、有川浩という作者はデビュー作の『塩の街』を含む自衛隊三部作を始めとして自衛隊を描くことが多く、その描写は実に真に迫っています

 

 

本人曰く、「まず、訳が分からないなりに何冊か資料を読む。そうしたらなんとなく分かってくるんです。詰め込んで詰め込んで、どこをバッサリ切るか、という。私の場合は膨大に詰め込んで、膨大に捨てるんです。( 作家の読書道 : 参照 )」ということです。

その結果、どの物語でも実にリアルな背景が描かれることになるのだと納得しました。

[投稿日]2017年04月27日  [最終更新日]2023年7月19日

おすすめの小説

おすすめの自衛隊関連小説

戦国自衛隊 ( 半村 良 )
この手のタイプスリップものの嚆矢と言って良いと思います。戦国時代に紛れ込んだ自衛隊の顛末は、二度の映画化、また漫画化もされました。その面白さは言うまでもありません。
戦国自衛隊1549 ( 福井 晴敏 )
半村良の『戦国自衛隊』の、映画用のノべライスと言ってもいいでしょう。この作品には出て来ませんが、この作家の多くの作品には、実在はしない防衛庁情報局(DAIS)が登場し、サスペンス色の強い物語を構成しています。その点については川の深さはに詳しく描かれています。
燃える波濤 ( 森 詠 )
少々古い(1980年代)のですが、スケールの大きなポリティカルサスペンス小説です。自衛隊の一部勢力がクーデターを企む様子が社会情勢も含めて実にリアルに描かれています。ただ、現在まで六巻が出ているものの未完なのです。実に残念です。
ゲート 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり ( 柳内 たくみ )
自衛隊勤務という経験を生かし、異世界に展開する自衛隊と異世界の軍隊との戦いや交流を描く、思いのほかにしっかりした構成を持った、ユーモア満載のファンタジー小説です。
ゼロの迎撃 ( 安生 正 )
東京の中心部でテロ攻撃が実行され、防衛庁情報本部情報分析官の真下俊彦三等陸佐は三人の部下と共に正体不明のテロリストに立ち向かう。自衛隊の現下の状況を踏まえ、法律論までかなり踏み込んで書かれていて、読み応えのある小説です。

関連リンク

作家の読書道:第68回 有川 浩さん | WEB本の雑誌
自衛隊三部作と呼ばれるデビュー作からの三作、「本の雑誌」が選ぶ2006年度上半期エンターテインメント第一位に輝いた『図書館戦争』。ミリタリー&ラブな要素をたっぷり盛り込んだ有川浩さんの作風は、どんな読書道から生まれたのか?
『図書館戦争』KADOKAWA総合サイト - 角川書店
「図書館戦争」シリーズ、原作は累計"600万部"突破のベストセラー!!
「図書館戦争」公式サイト
『図書館戦争』シリーズは、公序良俗を乱し人権を侵害する表現を取り締まる法律として「メディア良化法」が成立・施行された架空の現代日本を舞台に、不当な検閲から「本」を守ろうとする図書隊員たちの戦いと日常を描いたエンターテインメント小説。
BOOKインタビュー 有川浩 - TSUTAYA online
図書館を守るための戦いは自由な思想を守る戦いです
図書館が支えている私たちの「知る権利」 「図書館の自由に関する宣言」を知っていますか?
図書館は、私たちにとって、とても身近な施設です。しかし、その役割や存在意義について、私たちは十分に知っているでしょうか。図書館が、私たちの人権を守るために、どのような役割を果たしているのかについて、取材しました。
図書館の自由委員会 日本図書館協会
図書館の自由委員会は、図書館の自由を守り、広げる責務を果たすため、次のことを行う。
図書館の自由に関する宣言
図書館は、基本的人権のひとつとして知る自由をもつ国民に、資料と施設を提供することをもっとも重要な任務とする。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です