隣に座った女性は、よく行く図書館で見かけるあの人だった…。片道わずか15分のローカル線で起きる小さな奇跡の数々。乗り合わせただけの乗客の人生が少しずつ交差し、やがて希望の物語が紡がれる。恋の始まり、別れの兆し、途中下車―人数分のドラマを乗せた電車はどこまでもは続かない線路を走っていく。ほっこり胸キュンの傑作長篇小説。(「BOOK」データベースより)
上記の惹句には本書を長編小説と紹介してありますが、私は連作の短編小説として読んでいました。別にどうでもいいことではあります。
有川浩という作家の最初に読んだ作品が図書館戦争シリーズ二作目の「図書館内乱」で、次に読んだのが本書でした。あまりに傾向の違いに驚いてしまいました。
「図書館内乱」は自衛隊を思わせる図書隊という軍事組織の中での女の子が主人公の物語で、軍隊を舞台にした女子の青春(恋愛)小説とでもいえるものでした。
それに対し、本書はほのぼのとした人間模様が描かれています。阪急電車の今津線でのほんの十数分の間の出来事を各駅ごとの章立てで描き出したほんわかとした小編で出来ている連作短編集なのです。
たまたま同じ電車の同じ箱に乗り合わせたにすぎない、ひと駅ごとに入れ替わる何の関係も無い人々のそれぞれに各々の人生があって、その人生は交錯することはありません。
でも、ほんのたまに、ある人の人生が別のある人の人生と一点で重なり、そこで小さな恋物語が生まれたり、心許せる友達が出来たり、無神経なおばさん達をほんの少し懲らしめたありすることもあるのです。
少々話が都合がよすぎるのでは、と思わないではないのですが、せめて好きな本の中ではほのぼのと心温まる物語にひたってもいいじゃあないか、と思わせられる短編集です。
たまにはこんな物語もいいなと思ってしまいました。