本書『塩の街』は、有川浩の自衛隊三部作のうちの一作であり、文庫本で444頁の長編のSF小説です。
本書は『図書館戦争』を始めとするベストセラーを描き続けている有川浩のデビュー作品でもあります。
『塩の街』の簡単なあらすじ
塩が世界を埋め尽くす塩害の時代。塩は着々と街を飲み込み、社会を崩壊させようとしていた。その崩壊寸前の東京で暮らす男と少女、秋庭と真奈。世界の片隅で生きる2人の前には、様々な人が現れ、消えていく。だが―「世界とか、救ってみたくない?」。ある日、そそのかすように囁く者が運命を連れてやってくる。『空の中』『海の底』と並ぶ3部作の第1作にして、有川浩のデビュー作!番外編も完全収録。(「BOOK」データベースより)
塩に飲み込まれている世界とは、因果関係は不明なものの隕石らしき物体が降ってきてから始まった現象で、人間が塑像のように塩化してしまい、関東の人口は三分の一にまでなっています。
暴漢に襲われていた高校生の小笠原真奈は、元自衛官の秋庭高範に助けられ、そのまま彼の庇護のもとで生活していたのですが、猫、犬の次に彼女が拾ってきたのは人間でした。
『塩の街』の感想
本書『塩の街』がメジャーデビューだという有川浩ですが、物語のアイデア、そして全体の構成、リズム感に満ちた文章とデビュー作品とは思えません。
確かに、少々人物の書き込みや状況設定などに薄さを感じてしまう部分もあるのですが、もともとライトノベルとして書かれている作品でもあることを考えると、十分すぎる出来だと感じました。
本書『塩の街』は、元自衛官の秋庭高範と真奈との恋模様という、大人の男と少女との年齢差を越えた恋愛を軸に描かれている物語です。
更に、秋葉元二尉の友人だという入江という基地司令を名乗る男が登場し、二人の行く末に大きな影響を与えますが、こうし設定自体、このあとに出される有川浩の作品設定の基本形であると言えます。
『空の中』『海の底』と併せてのいわゆる自衛隊三部作の中では一番恋愛要素が強い作品でしょう。
先般、テレビで放映された、庵野監督の2016年版ゴジラである「シン・ゴジラ」を見ましたが、結局は本書も怪獣ものと言えます。
怪獣が暴れまわり、火を吐きビルや家屋を壊す代わりに、本書はただ静かに人間が塩化しているだけで、災厄の本質は何も変わりません。
ただ怪獣との戦いの場面が無いだけではありますが、その差が恋愛劇の舞台としては描きやすいかもしれないとは思います。事実、人間の塩化、つまりは「死」と生きている人間とのドラマが展開されるのです。
本書は、文庫本(角川版)で444頁という頁数ですが、中ほど250頁ほどからあとは「塩の街、その後」として、「-debriefing- 旅のはじまり」「-briefing- 世界が変わる前と後」「-debriefing- 浅き夢みし」「-debriefing- 旅の終わり」の四編の短編が収められています。
でも、本編と四編の短編を併せて「塩の街」というべきかもしれません。