本書『疫病神』は、『疫病神シリーズ』の第一弾の長編のピカレスク小説です。
じっくりと描きこまれた、コミカルで、それでいて読み応えのある実に面白い作品でした。第19回吉川英治文学新人賞と第117回直木賞夫々の候補作品になっています。
建設コンサルタント・二宮啓之の生業は、建設現場でのヤクザ絡みのトラブル処理。借金に苦しむ生活の中、産業廃棄物処理場をめぐる高額の依頼に飛びつくが、カネの匂いをかぎつけたヤクザの桑原保彦と共闘することに。建設会社、市議会議員、極道。巨額の利権に群がる悪党たちを相手に、ふたりは事件の真相に近づくが―。(「BOOK」データベースより)
本書『疫病神』で、建設コンサルタントの二宮啓之は、富南市(とうなんし)の天瀬(あませ)の廃棄物の最終処分場の作成計画にからみ、地元の水利組合の組合長の弱みを探る仕事を引き受ける。
しかし、処理場の開発には様々な思惑が絡み、巨額の金が動く。そこで、二宮が仕事を依頼している二蝶会の桑原という男が金の匂いを嗅ぎつけ乗り出して来るのだった。
産業廃棄物処理場の開発に、ゼネコンから暴力団までの様々な思惑が絡み、金の亡者たちの騙し合いが繰り広げられます。
その騙し合いに、金の匂いを嗅ぎつけた二蝶会の桑原が加わるのですから、間に立った二宮はたまりません。
桑原に振り回され、対立ヤクザに袋だたきにされ、果てには命の危険さえ降りかかってきます。
この桑原というキャラクタの行動原理は「金」です。一円にもならない仕事は見向きもしません。たとえそれが二宮の命がかかっている頼みごとであっても、自業自得や、と言いきってしまうだけです。
一方の二宮は博打で借金をこさえ、その返済に汲々としているどうしようもない男です。しかし、どこか根底で譲れない芯を持っており、途方も無い無茶をしでかしたりします。
本書『疫病神』での二宮と桑原の大阪弁での会話は漫才そのものです。それも息のあったベテラン漫才師のような掛け合いです。この軽妙な語りに乗せられて、ヤクザの絡みも暗いものにはなりません。
そうしたコンビですが、二宮が、対立するやくざに拉致され監禁されても、桑原は勝ち目が無いと見るや一目散に逃げ出してしまいます。
それでいて、どこかギリギリのところで繋がっているようで、最終的には単なる計算づくではない間柄というものが感じ取ることが出来ます。だからこそ、読んでいて心地よく、感情移入出来るのでしょう
本書『疫病神』は文庫本で五百頁を越える分量なのですが、リズムよく読み進めることが出来るのでその長さを感じません。また続編でこの二人の掛け合いを読みたいと思わせられる作品でした。