善い人ばかりが住むと評判の長屋に、ひょんなことから錠前職人の加助が住み始めた。実は長屋の住人は、裏稼業を持つ“悪党”たち。差配の儀右衛門は盗品を捌く窩主買い。髪結い床の半造は情報屋。唐吉、文吉兄弟は美人局。根っからの善人で人助けが生き甲斐の加助が面倒を持ち込むたびに、悪党たちは裏稼業の凄腕を活かし、しぶしぶ事の解決に手を貸すが…。人情時代小説の傑作。(「BOOK」データベースより)
『金春屋ゴメス』で第17回日本ファンタジーノベル大賞を受賞した著者の、人情味にあふれた連作の時代短編小説集です。
裏家業を持つ悪党たちばかりが住む長屋に新しく住みはじめた本物の善人である加吉が、様々な善意を施すものの自分ではその始末をつけることができず、結果として長屋の面々がその善意を手助けすることになる、という舞台設定は魅力的です。
文章も読みやすく人情味豊かな長屋の人々を描いた物語であり、面白くないとは決して言えない物語です。
しかし、どこか私の琴線には触れませんでした。
長屋の差配の儀右衛門の娘で、この物語の主人公と言っていいお縫は、加吉の持ちこむ難題を見ぬ振りができず、その結果、お縫に引きずられて長屋の小悪党たちが加吉を助けることになります。結果として、当たり前のことですが物語としてはそれなりの結末を迎えます。
しかし、その結末もすんなりと受け入れられないのが、個人の好みに合わないということでしょう。多分、このお縫の行動が身勝手な感じがして、感情移入できなかったのだと思われます。
ただ、最後の加吉を中心とした二編の物語は読みごたえがありました。この二編の内容は私の琴線に触れました。他の物語とそれほどに変わっている訳ではないのに、ただ、主題が加吉の背景に触れているだけなのに違うのです。
長屋を舞台にした作品は多数あり、そのどれもが人情時代小説としてそれぞれの面白さを持っています。その中で自分の好みのものを見つけることも読書の楽しみの一つだと思います。