『天地の螢 日暮し同心始末帖4』とは
本書『天地の螢 日暮し同心始末帖4』は『日暮し同心始末帖シリーズ』の第四弾で、2016年11月に祥伝社から288頁の書き下ろし文庫として出版された、長編の痛快時代小説です。
『天地の螢 日暮し同心始末帖4』の簡単なあらすじ
両国川開き大花火の深夜、薬研堀で勘定組頭が斬殺された。刀を抜く間も与えぬ凄腕に、北町奉行所平同心の日暮龍平は戦慄した。先月の湯島切通しと亀戸村堤での殺しに続く凶行だった。探索の結果、いずれの現場近くにも深川芸者くずれの夜鷹の姿が。やがて、人斬りと女のつながりにとどいた龍平は、悲しみと憎しみに包まれた真相に愕然とし―剛剣唸る痛快時代! (「BOOK」データベースより)
序 両国川開き
日暮龍平が警備をした両国川開き大花火の夜、薬研掘りの堤で御公儀勘定組頭黒川紀重とその家士が、深川の伝吉と名乗る夜鷹に殺された。
第一話 牢屋敷切腹検使
尾嶋建道と三谷由之助という部屋住み二名の殺害事件の掛を命じられた龍平は、二人が通っていた道場で輝川という寺小姓と二人との関係を聞く。その後、牢屋敷での切腹検使で、俊太郎の友人でもある同心司馬中也の、介錯人としての凄まじい姿を見るのだった。
第二話 寺小姓
どうしても輝川という寺小姓のことが気いなる龍平は、その寺小姓について調べると、輝川がいた寺は、四月の末に斬られた坊さんの寺のいた寺であり、輝川はある旗本と深川の羽織芸者の子だった。
第三話 読売屋孫兵衛
深川岡場所の女郎について詳しいという読売屋孫兵衛から、妾奉公のために息子を寺に預けた伝吉という羽織芸者がいたが暇を出され、しまいにはお伝という名で女郎をしていたという話を聞きこんできた。
第四話 江戸相撲
神田明神下の魚屋の倅に将来の大関間違いなしの相馬という男がいたが、その男には気の弱さからそうした評価も立ち消えになった過去があった。
第五話 道行
龍平と御家人らの殺害犯人である黒羽二重のお伝との対決となり、宮三らは相馬を取り押さえるのだった。
桔 愛しき人々
龍平と俊太郎との、今回の結果について久しぶりに語らう姿があった。
『天地の螢 日暮し同心始末帖4』の感想
本書『天地の螢 日暮し同心始末帖4』は『日暮し同心始末シリーズ』の第四弾となる長編の痛快時代小説です。
本書は、ある人物の復讐譚とも思える話になっています。復讐譚ですから、結局はこのシリーズの特徴である虐げられた者の悲哀を描きだすことにはなっているのですが、その恨みを晴らすのが龍平ではなく、理不尽な仕打ちを受けていた本人の手によるという点が異なります。
他の物語と同様に、本書の話も決して明るいものではありません。しかしながら、シリーズとして暗くないのはやはり、これまたこのシリーズについて毎回書いているところですが、龍平を取り巻く人物たちが決して暗くないこと、何より龍平一家の明るさが素晴らしいものであることによると思われます。
特に本書では、物語の最後での龍平と俊太郎との会話の場面で、龍平は「俊太郎に倣って、真っ直ぐ前を見つめた。すると、ささやかだがとても清々しい気分が胸いっぱいにあふれた。父と子の進む道の先には、晩夏の果てしない青空が広がっていた。
」と描写されています。
まさに、龍平らの目線は常に未来へと向かっているのでです。決して明るくはない過去は過ぎ去ったものとして、明るいであろう明日を一生懸命に生きようという強い意志が感じられるのです。
この作者の『風の市兵衛シリーズ』はベストセラーとなり、NHKでドラマ化もされていますが、それは主人公市兵衛も含めて物語自体の持つ爽やかさが読者に受け入れられているところではないでしょうか。
その意味では本書の物語は決して爽やかとは言えませんが、それでもなお主人公龍平というキャラクターの持つ爽やかさはなお感じられ、痛快小説の醍醐味も十分に感じられる作品となっています。