口入屋の米田屋光右衛門がこの世を去り、しめやかに葬儀が営まれた。皆が悲しみに暮れる中、光右衛門の故郷常陸国青塚村へと旅立った湯瀬直之進と妻のおきくは、墓参に訪ねた寺で、「光右衛門は人殺しだ」と村人から罵声を浴びせられる。さらに寺の住職から手渡された遺言状には、思いもよらぬことが記されていて…。人気書き下ろし長編時代小説、シリーズ第二十八弾。(「BOOK」データベースより)
前作の終わり、湯瀬直之進とおきくの婚儀の席でおきくの父である口入屋の米田屋光右衛門が倒れ、帰らぬ人となってしまいました。そこで、湯瀬直之進とおきくの二人は光右衛門の故郷である常陸国青塚村へと旅立つのでした。訊ねた先の寺で、おみわという女性を探し、幸せかどうかを確かめて欲しいと書かれた、光右衛門の遺言状を受け取るのです。
一方、南町奉行所同心樺山富士太郎は、八十吉という信州出身の元飾り職人が殺された事件を調べていたのですが、犯人の目星はついたものの、なかなかその尻尾をつかまえられないでいました。
このように、前作『判じ物の主』同様に、本作でも湯瀬直之進と南町奉行所同心樺山富士太郎の物語が並行して進みます。
ただ、今回は無くなった米田屋光右衛門の過去に隠された秘密を明らかにすることが主眼になっていて、光右衛門の残した遺言を果たしていくうちに、光右衛門の行動の意味も明らかになっていくのです。
他方、富士太郎の方の探索はうまく事が運んでいませんでした。しかし、いつものことながら、粘り強く探索を続ける富士太郎です。
このところ、このシリーズは単発の物語になっています。今回は光右衛門の過去という謎がテーマにはなっているものの、何となく読者を惹きつける魅力に欠けるような気がします。
勿論、単発なりに物語の面白さが全くないわけではないのですが、倉田佐之助という存在が仲間になってしまった今、やはりもう少し大きな謎なり、闘争の相手なりといった魅力的な敵役の存在が欲しい気がします。
登場人物たちも今ひとつその魅力が発揮できていない印象を受けるのです。
ただ、今回は若干の謎を次巻へ持ち越す話ではあります。でも、大きな謎というわけでもなさそうで、新たな展開を期待するばかりです。